歩道上において急に向きを変えた歩行者に自転車が衝突した事故

東京地裁平成26年9月30日判決(ウエストロー、判例秘書)

事案

歩道において横断歩道を渡るため急に向きを変えた歩行者自転車が衝突したという、自転車と歩行者の交通事故です。

  • 自転車の歩道通行
  • 歩行者の急な向きの変更
自転車と歩行者(歩道上)の裁判例
自転車と歩行者(車道上)の裁判例

過失割合

過失割合は歩行者0%対自転車100%

歩行者0% 対 自転車100%

裁判所の判断

裁判所は、過失相殺の主張について以下のとおり判断し、過失相殺を認めませんでした。

「本件事故は,自転車歩道通行可の歩道上における歩行者と自転車の衝突事故であるが,自転車は,歩道を通行することができるとされている場合であっても,自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければならないのであるから(道路交通法63条の4),被告は,被告自転車を運転して本件歩道上を進行するに当たり,前方左右を注視し歩行者との安全を確認して進行しなければならない。そして,本件歩道の本件事故現場付近には,車道部分に横断歩道が設置されていたのであるから,同所付近を走行する場合には,歩道上の歩行者が横断歩道を歩行しようと考えて進路変更することもあり得ることを考慮し,周囲の動静に注意を払うともに,歩行者との間に適切な間隔を維持しつつ走行し,歩行者を追い抜くためやむを得ず歩行者に接近するときはベルや声かけなどにより歩行者に注意喚起するなどの措置をとるべき注意義務があると解される。被告は,このような措置をとることなく,原告がそのまま直進を続けるものと軽信して原告の横を追い抜こうとしたのであるから,上記注意義務を怠った過失があるというべきである。」

「他方,歩行者も,歩道を通行することが許されている普通自転車との関係では,歩行者がわずかに注意すれば事故を回避することができる場合には,歩行者にも落ち度が認められるべきと解されるところ,本件では原告は横断歩道を横断するためその方向へ進路を変えたものであり,本件事故現場付近の状況に照らすと予測可能な範囲の行動であること,被告自転車が前方を歩行する原告の動きを認識することは容易であるのに対し,原告が後方から走行してくる被告自転車の動きを認識することは容易でないこと,原告が本件事故当時68歳の高齢者であったことを考慮すると,原告の落ち度は過失相殺をするほどのものということはできない。」

電話での簡単なご質問にも対応!お気軽にご相談ください
お電話で無料相談
LINEで無料相談

解説

概要

裁判所は、歩行者は歩行中に急に向きを変えたものの、横断歩道近くであり予測可能な範囲な行動であること、自転車からは歩行者の動きを認識するのは容易であるのに対し、歩行者から後方の自転車の動きを認識するのは容易でないこと、歩行者が高齢者であることなどから、歩行者の落ち度について過失相殺をするほどのものではないと判断したものです。

歩道の通行について

自転車は原則として歩道を通行することはできませんが、歩道通行可と指定された歩道であれば通行することができます。

自転車が歩道を通行するときでも、自転車は歩行者の優先、徐行義務、走行位置など、厳しいルールを守らなければなりません。

被告は歩道上における歩行者に対する安全確認が不十分であったとされました。

⇒自転車の歩道通行については自転車は歩道を通行できるのか?で解説しています。

高齢者修正について

被害者が高齢者であるときは、高齢者であることを理由に過失割合を小さくする修正が行われます。

原告が68歳と高齢であることが考慮されています。

  • 自転車は歩道では歩行者の通行を妨げるときは一時停止する義務があるところ、漫然と進行を続けた過失がある
  • 歩行者は横断歩道を横断するために進路を変えただけであり、予測可能な動きであるから過失は認められない

類似の裁判例

裁判例①

歩道上で歩行者が道路を横断するために歩き出したところ自転車が衝突したという事故の裁判例です。

歩道において道路横断のため歩き出した歩行者に自転車が衝突した事故

裁判所が認めた慰謝料と損害額

裁判所は、入通院慰謝料53万円を含む60万7259円を損害として認め、過失相殺を行いませんでした。