歩道上において視力障害を有する歩行者に自転車が衝突した事故

千葉地裁平成28年8月30日判決(自保ジャーナル1987号)

事案

歩道上において、視力障害を有する歩行者に、前方から走行してきた自転車が衝突した、自転車と歩行者の交通事故です。

以下の事情が考慮されています。

  • 自転車の歩道の通行方法
  • 歩行者の歩道での歩き方
自転車と歩行者(歩道上)の裁判例
自転車と歩行者(車道上)の裁判例

過失割合

過失割合は歩行者0%対自転車100%

歩行者0% 対 自転車100%

当事者の主張

自転車側は、以下の理由により過失相殺1割を主張しました。

「本件事故発生当時、糖尿病性網膜症のためにほとんど視力を失っていたから、つえを携え、又は盲導犬を連れている必要があったにもかかわらず(道路交通法14条1項)、これを遵守していなかった。被告は、原告がつえを携行し、又は盲導犬を連れていれば、原告に視力障害があって予想することができない動きをする可能性があることを予見し得たが、原告がつえの携行等を怠ったことにより、予見することができなかった。」

裁判所の判断

裁判所は、以下のとおり判断して過失相殺を認めませんでした。

「上記歩道は道路標識等により普通自転車が通行することができることとされているとはいえ、①被告車が上記歩道の中央から車道寄りの部分を徐行していたと認めるに足る的確な証拠がないこと、②被告は本件事故発生前に反対方向から歩行してくる原告の状況を認識していたところ、原告が被告の予想を超えるような動きをしたという事情は認められないこと、③被告が被告車を一時停止させることにつき何らかの支障があったとも認められないことからすれば、被告ら主張の諸事情(被告車が前照灯をつけていたこと、原告がふらふらと歩行していたこと、被告車の車体ではなく被告の左肩が原告に接触したこと、原告がつえを携行せず、盲導犬を連れていなかったこと等)を前提としても、原告には過失相殺として損害の算定に際して考慮すべき過失は認められないというべきである。」
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解説

概要

歩道上の自転車対歩行者の事故では、①自転車が歩道を通行する際のルールを守っていたか、②歩行者が特に危険な動きをしたかがポイントとなります。

歩行者は動いているのが当たり前ですから、簡単に「急な飛び出し」などが認められることはありません。

本件も同じような判断基準で歩行者の過失を認めないとしたものです。

歩道の通行について

自転車は原則として歩道を通行することはできませんが、歩道通行可と指定された歩道であれば通行することができます。

自転車が歩道を通行するときでも、自転車は歩行者の優先、徐行義務、走行位置など、厳しいルールを守らなければなりません。

被告がそうしたルールを守って走行していたとはいえないことや、原告が被告の予想を超えるような動きをしたとは認められないことから過失相殺を行わないとの判断をしています。

⇒自転車の歩道通行については自転車は歩道を通行できるのか?で解説しています。

  • 自転車は歩道では中央から車道寄りを徐行すべきところ、そのように走行したと認める証拠はない
  • 歩行者が予見不可能な動きをしたり、自転車が一時停止することができない事情もなく、歩行者に過失相殺をすべき過失はない

類似の裁判例

裁判例①

歩道上で歩行者に自転車が衝突した事故の裁判例です。

歩道上において歩行者が急に向きを変えたとしながら過失相殺を行わなかったもの