自転車事故の判例紹介
part1 過失割合編

自転車事故の過失割合の
ポイントと裁判例集

1自転車事故の過失割合の考え方

自転車事故の過失割合とは、事故の発生について、どちらの当事者に、どれだけの責任があるかを割合で示したものです。

過失割合の基本的な考え方は「自転車事故の過失割合」のページ、
自転車事故を詳しく知るには「自転車事故の専門サイト」をご覧下さい。

保険会社から示談案の提示があり、過失割合について見解が示されている場合、「別冊判例タイムズ38」のコピーが資料として添付されていることが多いと思われます。
その他、類似の裁判例や、リサーチ会社が作成した図面等も送られてくることがあります。
ここでは、保険会社から示談について提示があった場合の、具体的な検討方法について解説していきたいと思います。

2自転車対歩行者の事故

自転車対歩行者の事故については、別冊判例タイムズ38の【51図】~【97図】がありますので、保険会社から該当ページのコピーとともに過失割合が示されていることと思います。
事故の状況に争いがなければ、基本的には①そもそも【○○図】に当てはまる事故なのか、②【○○図】に示された基本過失割合を修正する要素はないのか、という観点から検討していくことになります。

事故の状況が争いになっているのか、あるいは事故の状況の「評価」だけが争いになっているのかを区別して考える必要があります。

自転車対歩行者の事故は、「横断歩行者の事故」、「対向又は同一方向進行歩行者の事故」、「道路外や車道から歩道、路側帯に進入してきた歩行者の事故」で分類されて過失割合が定められております。
また、それぞれに共通する過失割合の修正要素がありますので、主要なものを確認していきます。

(1)共通する修正要素

  1. 直前直後横断・佇立・後退、急な飛び出し
    普通に道路を横断したつもりなのに、「急な飛び出し」等を主張されることは少なくないようです。
    具体的な状況を踏まえた個別判断になりますが、別冊判例タイムズ38に「実務上、自転車側が、歩行者の飛び出し等を主張する例は少なくないが、この判断は慎重になされることを要する」と記載されているとおり、簡単に認められるべき修正要素ではありません。
  2. 児童・高齢者、幼児・身体障害者等
    児童・高齢者、幼児・身体障害者等については、各分類において被害者に有利な修正要素とされています。
    「児童」とは6歳以上13歳未満の者、「幼児」とは6歳未満の者、「高齢者」とはおおむね65歳以上の者、「身体障害者等」とは身体障害者用の車いすを通行させているなどの条件を満たす者をいい、明確な基準があります。
  3. 住宅街、商店街等
    人の横断、通行が激しい場所を想定しており、歩行者に有利な修正がなされます。
    具体的な状況を踏まえた評価になりますので、事故現場の画像、地図等により主張していく必要があります。
  4. 自転車の著しい過失
    自転車の著しい過失として、2人乗り、無灯火、片手運転、携帯電話の使用などがあります。
    こうした無灯火、携帯電話の使用等については、加害者が否定したときにどのように立証するかという問題があります。
    加害者立会いの実況見分調書に「ここで携帯電話を見ながら進行した」といった指示、説明が記載されていることもありますので、客観的な資料から立証できないか調査、検討していくことになります。
  5. 自転車の重過失
    自転車の過失として、著しい過失よりも重い、「重大な過失」があり、酒酔い運転、ブレーキのない自転車の運転などがこれにあたるとされています。

(2)横断歩行者の事故

自転車と道路を横断する歩行者の事故は、別冊判例タイムズ38の【51図】から【85図】です。

  1. 信号の色
    自転車対横断歩行者の事故の場合、信号の色により過失割合が大きく異なりますので、信号の色が争いになることが少なくありません。
    こうした事故において、保険会社から「リサーチ会社作成の報告書」等が届き、信号周期表、現場の図面などを示されながら、「これら客観的な資料から、あなたが赤信号で横断していたことが認められます」などと見解を示されることがあります。
    保険会社の見解は、あくまで「推論」に過ぎませんので、ご自身が「青信号で横断した」と確信しているのであれば、きちんと争っていくべきでしょう。
  2. 「横断歩道」における事故
    横断歩道については、横断歩道の端から外側に1mないし2m離れた場所、横断歩道が停止車両により閉塞されているときの車両の前後については、横断歩道と同視してよいとされています。
  3. 「横断歩道の付近」における事故
    自転車対歩行者の事故が「横断歩道の付近」で起きた場合、歩行者は横断歩道を横断しなければならない義務があるとして(道路交通法12条1項)、歩行者にもそれなりに大きな過失が認められることになります。
    被害者は、予想外に大きな過失割合に驚くことになるのですが、そもそも「横断歩道の付近」の事故に当たるのか慎重に検討する必要があります。
    別冊判例タイムズ38では「横断歩道の付近」を「通常人ならば道路を横断するに当たって当該横断歩道を利用するであろうと考えられる距離範囲内」とした上で「おおむね幅員14m(片側2車線)以上の道路で、交通量が多く、車が高速で走行している道路にあっては、横断歩道の端から外側におおむね40mないし50m以内の場所を、それ以外の道路にあっては20mないし30m以内の場所を、それぞれ考えるのが妥当であろう」と説明しています。
    実況見分調書を入手し、かかる基準に当てはまるかを検討する必要があります。
  4. 「信号機の設置された横断歩道の直近」の事故
    前項の「横断の歩道の付近」の付近の事故であっても、「横断歩道の直近」の事故であれば、信号の色によって歩行者の過失が異なることになります。
    別冊判例タイムズ38では「横断歩道の直近」とは「幅員14m(片側2車線)以上の広い幹線道路にあっては横断歩道の端から外側におおむね10m以内程度、それ以外の道路にあってはおおむね5m以内程度」としています。
  5. 横断禁止の規制あり
    横断禁止の規制がある場所の横断については、歩行者の過失が重いと評価されます。
    ただし、「横断禁止の規制あり」とは、横断禁止の道路標識やガードレール、フェンス等で横断禁止であることが容易に認識できることを前提にしているので、横断禁止であることがわかりにくい場所であれば、かかる修正要素について争っていくことになります。

(3)対向又は同一方向進行歩行者の事故

対向又は同一方向進行歩行者の事故は、別冊判例タイムズ38の【86図】~【95図】です。

  1. 歩道における事故
    自転車は原則として歩道を通行することができません。
    自転車は、通行可とされている歩道においても、中央から車道寄りの部分(道路標示で普通自転車通行部分の指定があるときは、その指定部分)を徐行しなければならないとされており、「徐行」とは時速6~8㎞程度とされています(自転車の通常の速度は時速15㎞程度と考えられています)。 
    歩道における事故は、①自転車が通行できる歩道であったのか、②通行できるとしても道路交通法に従った走行していたのかという点をまず確認する必要があります。
  2. 歩道における「急な飛び出し」
    歩道における事故において、歩行者の「急な飛び出し」が修正要素とされているものがあります。
    これは、歩行者が予想外に大きくふらつくなどして、自転車の前方に急に飛び出すなどした場合を想定しています。
    自転車が道路交通法に従って通行していることが大前提となりますので、自転車が「歩道の中央から車道寄りの部分を徐行」していない場合には修正されません。

(4)道路外や車道から侵入してきた歩行者の事故

道路外や車道から侵入してきた歩行者の事故は、別冊判例タイムズ38の【96図】~【97図】です。

  1. 歩道における「急な飛び出し」
    歩行者が、道路外の通路や施設から歩道に進入した場合などを想定してます。
    保険会社から、「急な飛び出し」があったとして10%の過失相殺を主張される例が多いように思います。
    仮に歩行者が急に飛び出したといえる状況であっても、自転車が道路交通法に従って通行していることが大前提となりますので、自転車が「歩道の中央から車道寄りの部分を徐行」していない場合には修正されません。
    特に、道路外の施設から歩道に進入した場合など、自転車の走行場所に問題がなかったかを確認しましょう。
  2. 路側帯における事故
    路側帯とは「歩行者の通行の用に供し、又は車道の効用を保つため、歩道の設けられていない道路又は道路の歩道の設けられていない側の路端寄りに設けられた帯状の道路の部分で、道路標示によって区画されたもの」をいいます。
    自転車は左側の路側帯を通行する義務がありますので、右側の路側帯を走行していれば著しい過失として修正要素になります。
    なお、自転車が歩道を走行するときは、「左側の歩道を通行する義務」はなく、右側の歩道を通行することも許されます(但し、中央から車道寄りの部分を徐行しなければなりません)。

3自転車対自転車の事故

自転車対自転車の事故の過失割合については別冊判例タイムズ38にないため、保険会社からは類似の裁判例や、別冊判例タイムズ38の自動車対自動車の過失割合のページのコピーが送られてくることになります。
しかし、自動車対自動車の事故の過失割合を、自転車対自転車の事故に当然に当てはめてしまうと、明らかにバランスを欠いた結論になることがあります。
そこで、「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本 下巻)というものを参考にしつつ、自動車同士の事故との違いを意識しつつ、過失割合について交渉していくことが考えられます。 この基準では、自転車同士の事故が「直進自転車のいわゆる出会い頭の事故」「対向方向に進行する自転車同士の事故」「同一方向に進行する自転車同士の事故」に分類されていますので、主なものを確認していきます。

自転車同士の事故の場合、双方ともが加害者であり被害者であるというケースが少なくありませんので、自身が無保険だと賠償義務にも悩まされることになります。

(1)共通する修正要素

各分類に共通する修正要素について説明していきます。

  1. 児童、高齢者修正
    児童、高齢者等については、自転車対自転車の事故においても被害者に有利な修正要素となります。 ただし、自転車対自転車の事故の場合、相手方も怪我をしており、双方とも加害者であり被害者であるということもあります。 こうした双方とも怪我をした事故で、当事者が双方とも児童、高齢者であったときに、過失割合の修正をどのように考えていくかが問題となります。 児童、高齢者について過失割合を修正する根拠は弱者保護にありますので、加害者も児童、高齢者だからといって被害者の要保護性が失われることはありません。 そのため、自身が被害者として損害賠償請求を行う場面では、児童、高齢者として過失割合を有利に修正するという考えが示されています。
  2. 著しい過失、重過失
    著しい過失、重過失として、片手運転、携帯電話の使用、イヤホン・ヘッドホンの使用、二人乗り等があり、著しい過失については10%、重過失については20%の修正を行うものとし、修正要素が重複することも踏まえ「10~30%」の修正を行うという考えが示されています。

(2)直進自転車のいわゆる出会い頭の事故

いわゆる出会い頭の事故については、信号のある交差点、信号はないが一時停止のある交差点、同幅員の交差点に分類されています。

  1. 信号のある交差点
    信号のある交差点については、自動車事故と同様に考えられています。
  2. 一時停止規制のある交差点
    一時停止規制のある交差点では、自転車の場合は必ずしも厳守されていないこと、自転車が低速で走行していることなどを踏まえ30%対70%とし、丁字路交差点では25%対70%とする考えが示されています。
  3. 同幅員の交差点
    信号、一時停止規制のない同幅員の交差点において、自転車運転者は左方優先のことを知らない者もいることから(自転車運転は免許制ではないため)、左方車を45%、右方車を55%とし、丁字路交差点では40%対60%とする考えが示されています。
  4. 高速度進入
    交差点の事故で共通する修正要素として、高速度進入、著しい高速度進入があり、高速度進入は概ね時速20㎞を超えた場合、著しい高速度進入は概ね時速30㎞を超えた場合とされています。

(3)対向方向に進行する自転車同士の事故

対向方向に進行する自転車同士の事故では、歩道の事故と、生活道路上の事故とで分類した上で、基本過失割合を50%対50%とし、修正要素で修正していく考えが示されています。

(4)同一方向に進行する自転車同士の事故

同一方向に進行する自転車同士の事故は、①追抜車と被追抜車の事故、②進路変更車と後続直進車の事故、③交差点における右(左)折車と後続直進車との事故に分類されています。

  1. ①追抜車と被追抜車の事故
    追抜車と被追抜車の事故については、自動車同士の事故とは異なり先行車に20%もの過失を認めるのは相当でないとして、基本過失割合を0%対100%とする考えが示されています。
    また、自転車に特有のものとして「先行車のふらつき」を修正要素とし、通常予想される程度の振幅はこれにあたらないとした上で、10%~20%の修正要素としています。
  2. ②進路変更車と後続直進車の事故
    自転車の場合は先行車が後方を確認するのが困難であり、一方で後方車は先行車との衝突回避が容易であるという特殊性を踏まえ、先行車60%対後行車40%とする考えが示されています。
  3. ③右(左)折車と後続直進車の事故
    自動車同士の事故では、先行車があらかじめ中央(右折の場合)や左側端(左折の場合)によって右左折する義務など、細かい道路交通法の規制があることが前提になっているため、別冊判例タイムズ38の基準はあまり参考に出来ないとした上で、基本過失を先行車65%対後続車35%とする考えが示されています。

4自転車事故の裁判例集

自転車事故の事故態様は、自動車事故の事故態様よりも一般化しにくく、事件ごとに「特別な事情」が存在することも多いため、上記の基準をそのまま当てはめることで妥当な結論を導けるとは限りません。 以下では自転車事故の裁判例を多数紹介しておりますので(当事務所が代理人となった裁判例ではありません)、裁判所が重視したポイントを参考にしていただけたらと思います。

裁判例 カテゴリー

自転車対歩行者(歩道上)の過失割合

自転車対歩行者(車道上)の過失割合

自転車対自転車(歩道上)の過失割合

自転車対自転車(車道上)の過失割合

自転車対自動車・単車の過失割合

その他

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