直進自転車と、前方交差点を右折進行してきた自転車が衝突した事故

名古屋地裁平成20年2月29日(交通事故民事裁判例集41巻1号)

事案

見通しの悪い交差点の手前において、直進する自転車と、交差点を右折して進行してきた自転車が衝突したという、自転車同士の交通事故です。

以下の事情が考慮されています。

  • 交差点に差し掛かる前の衝突
  • 衝突を回避可能な状況であったか
  • 日傘を差しながらの自転車運転
自転車同士(歩道上)の裁判例
自転車同士(車道上)の裁判例

過失割合

過失割合は自転車0%対自転車100%

自転車0% 対 自転車100%

裁判所の判断

裁判所は、以下のとおり判断して過失相殺を認めませんでした。

「被告は、原告には、前方及び左方を注視して減速して直進進行すべき注意義務があり、これをしなかった過失がある旨主張する。
しかし、本件事故当時、原告が前方注視を怠っていたものと認めるに足りる証拠はなく、また、未だ本件交差点に差し掛かる以前であった原告には本件交差点左方の注視義務は認められない。さらに、原告車両の速度は、原告の年齢等の属性や前記運転態様に照らすと、相当に低速であったものと推認されるところ、未だ本件交差点に差し掛かる以前であった原告に減速義務は認められない
そして、本件事故態様は、原告にとっては、南北道路の西側歩道上を本件交差点に向けて直進して進行していたところ、同交差点に差し掛かる以前において、突然、本件交差点の西方向(原告から見て左方向)から被告車が出現し、原告車に向けて走行してきたものであり、しかも、被告がハンドルを(被告から見て)左に転把したことにより、被告車はかえって原告車に向けて進行する結果となり、被告車の前輪が原告車の左側に衝突したものである。かかる事故態様においては、原告にとっての回避可能性はないというべきである。」「被告は、原告が傘を差しながら運転したこと、体格に適合しない自転車に乗車していたことから、原告に過失がある旨主張する。
確かに、原告は、前記のとおり、右手で日傘を差しながら運転していたものであり、これは適切な運転操作を行う上で支障を生ずる可能性の高い運転方法である。また、原告車のサドルの高さは、原告がサドルに座った場合、原告の両足がつま先立ちでようやく地面に着く程度の高さであったのであり(原告本人一五頁)、これも、原告の年齢等の属性に鑑みると、安全上の問題があったものと評しうる。
しかしながら、本件事故態様に鑑みると、本件事故が発生し、これによる原告の損害が発生する上で、上記の各点が何らかの寄与をしたものとまでは認めることができない。換言すれば、原告が、両手でハンドルを把持していたとしても、また、両足底が容易に地面に着く自転車に乗車していたとしても、本件事故態様の下では、原告にとって本件事故及びこれによる損害の発生は避けられなかったものと解される。
他に、本件証拠上、過失相殺を行うべき事情は認められない。
以上の検討によれば、原告の損害につき過失相殺を行うべきであるとする被告の主張は採用することができない。」
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解説

概要

自転車同士の交差点での出合い頭の事故ではなく、「交差点に差し掛かる以前」の事故であると評価された事故です。

まだ交差点ではないため、左方の安全確認義務、減速義務は認められないなどとして、過失相殺を行わなかった珍しい裁判例です。

傘差し運転について

自転車の傘差し運転は法律で禁止されています。

また、一般に傘を差していることは運転の邪魔になりますので、過失として評価されることが多いといえます。

しかし、本件では日傘を差していたことを「適切な運転操作を行う上で支障を生ずる可能性の高い運転方法である」としながら、本件事故の発生に影響していないとして過失相殺を行いませんでした

⇒自転車の傘差し運転については自転車の傘差し運転は許されるか?で解説しています。

  • 交差点の事故ではなく、交差点に差し掛かる前の事故であるとして、減速義務違反、前方注視義務違反はなく、回避可能性もなかったとした
  • 傘差し運転については、傘を差していたことが事故発生に寄与していないとして過失として考慮しなかった

裁判所が認めた慰謝料と損害額

裁判所は、通院慰謝料130万円を含む229万5778円を損害として認め、過失相殺を行いませんでした。