歩道に進入した歩行者と直進する自転車が衝突した事故

東京地裁平成30年12月21日判決(ウエストロー)

事案

自転車が歩道を走行していたところ、歩道に進入してきた歩行者と衝突したという、自転車対歩行者の交通事故です。

以下の事情が考慮されていますので、類似する事故の過失割合でお悩みの方は参考にしてください。

  • 自転車の歩道通行
  • 歩行者の歩道への進入
  • 歩行者の飛び出し等の有無
自転車と歩行者(歩道上)の裁判例
自転車と歩行者(車道上)の裁判例

過失割合

過失割合は歩行者0%対自転車100%歩行者0% 対 自転車100%

裁判所の判断

裁判所は過失割合について以下のとおり判断しました。

「被告は、被告自転車を運転して本件歩道を進行するに当たり、路外から本件歩道に進入してくる歩行者の有無、動静に注意して安全な速度と方法で通行する義務があるにもかかわらず、自動販売機の死角になっている右側の路外のスペースから本件歩道に進入してくる歩行者の有無及び動静を十分に確認しないまま、時速約15kmないし20km程度の速度で進行したもので、被告には本件事故につき過失があるというべきである。

他方、原告が上記スペースから本件歩道に進入するに当たり、歩行者の通常の歩行速度よりも速く歩行したり、ふらつきながら歩行したりした事実を認めるに足りる証拠はないこと、被告自転車の進行速度(徐行していたものとはいい難い。道路交通法63条の4第2項参照)からすると、原告が被告から見て死角になっている場所から本件歩道に進入してきたことを考慮しても、本件事故の発生について、特段の落ち度があったとはいえない。

したがって,本件事故について,過失相殺をするのが相当とはいえない。」

電話での簡単なご質問にも対応!お気軽にご相談ください
お電話で無料相談
LINEで無料相談

解説

概要

歩道上で歩行者と自転車が衝突した事故です。

自転車は歩道で徐行する義務がありますが、本件では時速15~20㎞で走行しており、これは徐行とはいえません。

歩行者が特に危険な動きをしていなかったことも踏まえ、過失相殺を認めませんでした。

基本過失割合

歩行者が歩道へ進入した事故

自転車と歩行者の事故の過失割合については、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」で基本過失割合と修正要素が示されています。

歩行者が歩道に進入し、直進自転車が衝突した事故の基本過失割合は、歩行者0%対自転車100%とされています。

自転車の歩道走行

自転車は原則として歩道を通行することはできませんが、歩道通行可と指定された歩道であれば通行することができます。

自転車が歩道を通行できるときでも、道路交通法63条の4第2項で決められた、歩行者の優先、徐行義務、走行位置など、厳しいルールを守らなければなりません。

道路交通法第63条の4

2 前項の場合において、普通自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分(道路標識等により普通自転車が通行すべき部分として指定された部分(以下この項において「普通自転車通行指定部分」という。)があるときは、当該普通自転車通行指定部分)を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。ただし、普通自転車通行指定部分については、当該普通自転車通行指定部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がないときは、歩道の状況に応じた安全な速度と方法で進行することができる。

引用元:道路交通法第63条の4 e-Gov法令検索

本件では、徐行せず時速約15kmないし20km程度の速度で進行したことや、歩行者の有無を十分に確認していないことを過失としています。

徐行というのは、危険を感じたときにすぐに停止できる速度をいいます。

自転車の歩道通行については⇒自転車は歩道を通行できるのか?

歩行者の歩道への進入について

歩行者が歩道へ進入し、歩道を直進する自転車と衝突した事故については、基本過失割合が0対100とされています。

歩道は歩行者が優先とされているため、歩道に進入したというだけで過失として評価されることはありません。

自転車と歩行者の事故の過失割合については⇒自転車と歩行者の過失割合は?

ただし、歩行者に急な飛び出し等の特別の事情があれば、自転車にとっても歩行者との衝突を回避するのが困難となりますし、そうした行動をとった歩行者にも過失割合が認められることがあります。

本件では歩行者にそうした事情はないとして過失相殺を認めませんでした。

  • 自転車が歩道を通行するときは歩行者の動静に注意して、安全な方法で走行する義務がある
  • 自転車が漫然と時速約15kmないし20km程度の速度で進行したことを過失として重視した
  • 歩行者が危険な動きをした事実は認められないとして、自転車の死角から歩道に進入したことも過失としなかった

類似の裁判例

裁判例①

歩行者が自宅門から歩道に出たところ、坂道を下る自転車に衝突された事故の裁判例です。

歩行者が歩道へ進入した際の事故として参考になります。

歩道において自宅門から出た歩行者に、坂道を下る自転車が衝突した事故

裁判例②

歩行者が店舗から歩道に出たところ、自転車に衝突された事故の裁判例です。

歩行者が歩道へ進入した際の事故として共通点があります。

歩道において店舗から出てきた歩行者に自転車が衝突した事故

裁判例③

路地から歩道に進入した歩行者と、歩道を走行していた自転車が衝突した事故の裁判例です。

歩行者が歩道へ進入した際の事故の過失割合として参考になります。

歩道に進入した歩行者と歩道の自転車が衝突した事故

裁判所が認めた慰謝料と損害額

裁判所は、通院慰謝料98万円を含む128万2812円を損害として認め、過失相殺をせずに請求を認めました。

関連するページ

  1. 自転車事故の慰謝料の解説
  2. 自転車事故の示談までの流れ
  3. 自転車事故の損害賠償請求の疑問を解決