歩道上で直進自転車と無灯火自転車がすれ違うときに接触した事故

大阪地方裁判所平成30年10月30日判決(自保ジャーナル2036号)

事案

歩道において、自転車が直進していたところ、対向する無灯火の自転車と衝突したという、自転車同士の交通事故です。

以下の事情が考慮されていますので、自転車事故の過失割合でお悩みの方は参考にしてください。

  • 自転車同士がすれ違う際の事故
  • 自転車同士の歩道上の事故
  • 自転車の無灯火
自転車同士(歩道上)の裁判例
自転車同士(車道上)の裁判例

過失割合

過失割合は自転車40%対自転車60%

自転車40% 対 自転車60%

裁判所の判断

裁判所は、原告の過失について以下のとおり述べました。

「原告には、前方の安全に注意して、被告側3台の自転車とすれ違うことができる距離をとるため、必要に応じてハンドルを切ったりブレーキを掛けたりするなど、ハンドルとブレーキを適切に操作して進行すべき義務があり、また、前方を注視して安全を確認しながら進行すべき義務があったのに、これを怠り、前記(1)イのとおり、漫然と、本件歩道のやや北側(建物側)寄りを走行した結果、被告側3台の自転車とすれ違うことができる距離をとることができず、また、被告自転車を衝突まで発見することができず、原告自転車を被告自転車に接触させた過失がある。

なお、前記(1)アのとおり、原告の進路前方には、歩道上南側に本件構造物が存在するため、本件歩道の幅員が狭くなっている箇所があるが、被告側3台の自転車とすれ違うのは、その箇所よりも手前であるから、被告側3台の自転車とすれ違う前に、予め本件歩道の北側寄りを走行することが許されるわけではなく、原告の上記義務が否定ないし軽減されるものではない。

また、道路交通法上、普通自転車が歩道を通行する場合において、当該歩道の左側を通行しなければならないとする規定はない

もっとも、被告側3台の自転車が前方右手に接近している状況において、原告が、漫然と本件道路の北側(建物側)寄りを進行し、距離をとらなかったことに問題があるのは、前記のとおりである。」

裁判所は、被告の過失について以下のとおり述べました。

被告には、他の自転車とすれ違う際には、安全のため、前方を注視しつつ、適切にハンドルを操作して進行すべき義務があるのに、前記(1)ウのとおり、本件歩道の登り坂を進行する際、前傾姿勢で下向きになり、前方への注意を怠り、被告自転車を原告自転車に衝突させた過失がある。

また、被告は、前記第1の2(1)のとおり、無灯火で被告自転車を進行させた過失があり、このために、原告が、被告自転車を発見することができず、本件事故を誘発したといえる。

前記(1)アのとおり、本件事故現場には、照明があったが、前記(1)イによれば、原告の被告自転車発見が遅れたのは、原告の前方不注視のみならず、被告の無灯火によるところも大きいと考えられるから、被告の無灯火が本件事故に影響を与えていることは否定できない

無灯火により原告の被告自転車の発見を遅らせている点や、原告が前方を注視して訴外1台目自転車とすれ違っている一方、被告は衝突まで原告自転車に気付いておらず、前方不注視の程度が著しいという点で、被告の過失の程度は、原告の過失と比べて、やや大きいといわざるを得ない。」

裁判所は過失割合について以下のとおり判断しました。

以上を踏まえると,原告と被告の過失割合は,原告40対被告60とするのが相当である。
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解説

概要

歩道上の自転車同士の事故で、歩道の中央より建物寄りを走行し、相手自転車と安全にすれ違える距離をとらなかったことが過失とされています。

登り坂を走行するときに、前傾姿勢で下を向いていたことなども過失として指摘されています。

相手自転車に無灯火の過失があるため、同程度の過失とはならず40%対60%という判断になっています。

基本過失割合

自転車同士の歩道上の事故

自転車事故の過失割合は「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本下巻 日弁連交通事故相談センター )というものを参考にし、過失割合について検討していくことが考えられます。

自転車同士の歩道上の事故の基本過失割合は自転車50%対自転車50%とされています。

自転車の歩道の通行について

自転車は原則として歩道を通行することはできませんが、歩道通行可と指定された歩道であれば通行することができます。

自転車が歩道を通行するときでも、自転車は歩行者の優先、徐行義務、走行位置など、厳しいルールを守らなければなりません。

自転車は、歩道の中央より車道よりを走行するものとされているため、歩道の左側を走行する義務はありません。

本件でも、自転車は歩道の左側を走行する義務はないとして、前方の自転車と適切な距離をとってすれ違わなかったことが過失とされています。

自転車の歩道の通行については自転車は歩道を通行できるのか?で解説しています。

自転車の無灯火について

自転車も夜間には灯火義務がありますので、無灯火で自転車事故を起こすと過失として評価される可能性が高いといえます。

本件でも無灯火により相手自転車が自車を発見するのが遅れたとして、無灯火で走行したことを過失として評価しています。

相手方の無灯火の立証方法ですが、供述調書を入手できる事件(起訴された事件や少年事件)であれば、無灯火を認める供述をしている可能性があります。

自転車の無灯火については⇒自転車が夜間にライトをつけることは法律上の義務か?

  • 自転車には安全にすれ違う距離を保って進行する義務があるところ、原告はこれを怠った過失がある
  • 被告の自転車の無灯火走行は過失であり、事故状況を踏まえてもこれが事故発生に影響を与えていることは否定できない
  • 自転車同士の正面衝突事故ではあるが、被告の過失の方がやや重いと判断した

類似の裁判例

裁判例①

無灯火二人乗り自転車と、高速度で走行する自転車が衝突した事故の裁判例です。

過失割合の判断において無灯火を考慮しています。

無灯火二人乗り自転車と、時速20㎞で走行した自転車が正面衝突した事故

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自転車同士の正面衝突で、一方が無灯火、右側走行の事故

裁判所が認めた慰謝料と損害額

裁判所は、通院慰謝料6万3000円を含む6万9090円を損害として認め、過失相殺として6割を控除した2万7636円の請求を認めました。

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