自転車事故で治療費が打ち切られそうなときの対応は?

弁護士 髙橋裕也

執筆者:西宮原法律事務所

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治療費打ち切り

自転車事故で通院を続けていて、保険会社から治療費の打ち切りを告げられたら、どうしたらいいのでしょうか?

自転車の交通事故で治療費が打ち切られそうなときは、保険会社と交渉する、健康保険を使用して自費での通院を続ける、そのタイミングで後遺障害診断書を作成してもらうという対応が考えられます。

治療費を打ち切られそうなときに、被害者がどのよな対応をとるべきなのか解説していきます。

このページで解決するお悩み

  1. 治療費を打ち切るといわれたときの対応がわかる
  2. 治療費を打ち切られたときの対処法がわかる
  3. 自費で通院を続けるメリットとデメリットがわかる

治療費の支払い

まず、治療費の打ち切りの前提として、自転車事故の治療費の支払いについて整理します。

自転車事故の治療費の支払い方法

自転車の交通事故の治療費の支払いには、大きく3つの方法があります。

①被害者が病院に治療費を支払い、その後に保険会社に請求する

病院の窓口で治療費を支払い、保険会社に領収書を送って清算を行います。

1~2か月ごとに清算することもありますし、示談のときにまとめて精算することもあります。

治療費を立替えておく負担が大きいため、健康保険を使うのが一般的です。

②保険会社が直接病院に治療費を支払う

保険会社が直接病院に治療費を支払ってくれる場合、被害者が窓口でお金を払う必要はありません。

保険会社の担当者が「自転車事故では自賠責保険がないため、治療費を直接払うことができません」と説明することがありますが、この説明は不正確です。

保険会社は自賠責保険とは関係なく治療費を支払うことができますので、直接払いを認めてくれるよう交渉しましょう。

ただし、健康保険を使用する場合、病院の都合で直接払いをしてもらえないこともあります。

③労災保険により治療費の負担なく治療を受ける

自転車事故が通勤中の場合など、労災による治療を検討することになります(健康保険は使えません)。

労災保険を使えるときは、窓口で治療費を払うことなく治療を受けることができます。

労災で治療を受けるための書類を会社に作成してもらい、これを病院に提出することになります。

書類の準備に時間がかかりそうなときは病院に相談しましょう。

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治療費が支払われる流れ

自動車事故の場合②の方法が一般的ですが、自転車事故では①の方法も少なくありません。

また、病院によっては、健康保険で通院すると②の方法での支払いは拒否され、①の方法で支払わないといけないこともあります。

保険会社に治療費を支払ってもらうためには「同意書」を提出する必要があります。

保険会社は、病院に診断書、診療報酬明細書を発行してもらい、怪我の状態、治療費を把握して支払いを行うためです。

保険会社は、労災で治療費が支払われている場合でも、治療状況を把握するために同意書を提出を求めることがあります。

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自転車事故の治療費の打ち切りとは

治療費の打ち切りとは、保険会社が治療費の支払いを停止してしまうことをいいます。

保険会社が治療費を病院に直接支払っているケースでは、病院へ治療費の支払い停止の連絡を入れます。

被害者が治療費を病院に支払い、その後に保険会社へ請求をしているケースでは、被害者からの治療費の請求に応じてくれなくなります。

保険会社は、「怪我が治癒したこと」「症状固定となったこと」を理由に治療費の支払いを打ち切ります。

症状固定というのは、治療を継続しても症状の改善が見込めない状態をいいます。

症状固定の判断については、医師の意見が重要な判断要素となりますが、法的な概念なので医師に判断権原があるわけではありません(最終的には裁判所が判断できるものです)。

そのため、保険会社が医師の意見を無視して治療費を打ち切ってしまっても、そのことだけで「保険会社が不当な打ち切りを行った」とまではいえません。

保険会社の考え方について、日本損害保険協会の説明を引用します。

実際に、むち打ち症によって、長期治療を余儀なくされ、苦しんでいる方がいます。その一方で、軽微な事故にも関わらず、長期入院をして損害賠償請求したものの、裁判の結果、因果関係を否定された方がいるのも事実です。
両者をどのように判断するかは、非常に難しい問題といえますが、不当に治療費の請求がなされることがないように対処することは必要であり、そのため、保険会社としても努力しています。

引用元:日本損害保険協会、損害保険Q&A

被害者にとっては、保険会社が医師の意見を無視してまで治療費を打ち切ること(打ち切っても許されること)は理解しにくいですが、このような考え方によるものなのです。

自転車事故の治療費の打ち切りへの対応は?

保険会社が治療費の打ち切りを打診してきた場合には、被害者はどのように対応すべきなのでしょうか。

まずは、保険会社の担当者に対し、治療費の打ち切りの根拠を聞く必要があります。

担当者は、「病院へ医療照会を行った結果、症状固定時期についてこのような回答を得たからです」と説明することが多いかと思いますが、「顧問医の判断です」と説明することもありますし、具体的な打ち切りの根拠を説明できない場合もあります。

被害者は、痛み等の症状があるから通院を続けており、医師も治療の必要性があるからこそ治療を行っているのですから、具体的な根拠を示さずに治療費を打ち切るのは不当であるといえますし、保険会社の担当者にもそのように伝えて交渉することになります。

一方、保険会社が医師から回答を得ているのであれば、被害者側も医師面談等により医師の見解を確認しなければ、保険会社との交渉は難しいといえます。

医師面談等を行えば、医師からは「まだまだ治療が必要と考えられます」「一進一退になってますね」などと意見を聞くことができますので、治療継続の必要性が認められるのであれば意見を書面にしてもらい、保険会社の担当者と交渉をすることも考えられます。

また、保険会社としても被害者に納得してもらいたい気持ちはありますので、「あと1か月だけ続けたい」といった程度の要求であればすんなりと認めてくれることもあります。

なお、交渉による治療費支払いの継続が難しいようであれば、「交渉しても無駄だな」と割り切って健康保険を使用して治療を続けるなどされた方がよいといえます。

治療費を打ち切られてしまったときの対応

保険会社から治療費を打ち切られてしまったとき、被害者はどのように対応すべきでしょうか。

対応を間違えると、怪我の治療が中途半端になってしまうだけでなく、損害賠償額が大きく減ってしまう可能性がありますので注意が必要です。

健康保険を利用して治療を続ける

保険会社が病院へ治療費を直接支払ってくれなくなっても、自分で健康保険を使って治療を続けることができます。

病院から「事故では健康保険を使えませんよ」と説明を受けることもありますが、自転車事故でも健康保険を使うことができます。

自分で支払った治療費については、治療終了後に保険会社に請求することになります。

保険会社は、「症状固定になった」と判断した後の治療費について簡単に支払ってはくれませんが、後遺障害が認められたときには柔軟に対応してくれることがあります。

治療費についてどうしても折り合いがつかなければ、裁判で解決することを検討しないといけません。

人身傷害保険を利用して治療を続ける

自転車の交通事故でも利用できる「人身傷害保険」があります。

人身傷害保険というのは、自身が加入する保険から、自身の怪我の治療費、慰謝料等の支払いを受けることができる保険です。

人身傷害保険からの支払いが可能であれば、人身傷害保険を利用して治療を続けることを検討します。

ただし、治療が長期化している場合には、人身傷害保険でも治療費の支払いを拒否されることがあります。

例えば、むちうちで通院期間が6か月以上という場合ですと、人身傷害保険でも治療費の支払いについて難色を示されることが予想されます。

後遺障害を主張する準備を行う

医師に症状固定時期について相談し、治療継続について消極的な意見であれば、後遺障害診断書の作成を依頼することが考えられます。

損害賠償との関係では一区切りとして(症状固定として)、後遺障害を主張するための準備を行うということです。

自転車事故の治療は、長ければ長いほど損害賠償請求で有利になるというものではありませんので、適切なタイミングで症状固定とすることは重要です。

裁判になった場合に、裁判官が適切な治療期間を認定しますので、治療を続ければ続けるほど慰謝料が高額になるとは限りません。

むしろ、症状固定として後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害の主張につなげた方がよいと考えられる状況もあるのです。

後遺障害診断を作成してもらうべき場合もあれば、「もう少し治療を続けた上で症状固定とした方がよい」という場合もありますので、方針を慎重に検討しなければいけない状況です。

当事務所では、弁護士が積極的に医師との面談を行い、症状固定のタイミングを十分に検討した上で、後遺障害診断書の作成をお願いするようにしています。

後遺障害診断書を作成してもらった上で、症状が続くようであれば健康保険を利用して通院を続けることも可能です。

治療費打ち切りで通院をやめると損をする?

保険会社から治療の打ち切りの連絡があったときに通院をやめてしまうと、損害賠償請求で以下のような損をしてしまう可能性があります。

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治療を十分に受けることができない可能性がある

保険会社は「治療費を支払うべき期間」について検討して治療費を打ち切りますが、被害者が治療を継続する必要性について責任を持ってくれるわけではありません。

医師が治療継続が必要だと説明しているのに、保険会社の判断で治療を終了してしまうと、治療が十分でないまま症状に苦しみ続ける可能性があります。

保険会社の担当者も、「治療費の支払いを終了するだけです。自分のお金で病院に行かれるのは自由です」という説明をするはずです(十分に説明してくれないこともあります)。

被害者としては「保険会社の指示で治療を終了したのに・・・」と思ってしまいますが、保険会社は裁判などで「被害者は痛みがなくなっため自分の意思で治療を終了させた」と主張しますので、被害者が治療の打ち切りについて強い不満を持つことが少なくありません。

治療費打ち切りの打診を受けたら、まずは医師に治療継続の必要性について相談することが重要といえます。

慰謝料が減ってしまう可能性がある

自転車事故の怪我による慰謝料は、基本的には治療期間を基準に算定されることになります。

慰謝料を計算するときに治療期間が実際よりも短く評価されてしまうことがありますが、実際の治療期間よりも長く評価してもらうことは難しいです(特別の事情が必要となります)。

被害者は痛みを我慢していただけなのに、「病院に行かなくなった=症状がなくなった」という評価を受けてしまうためです。

保険会社から連絡を受けて、不相当な期間で治療を中止してしまうと、本来はもらえたはずの慰謝料がもらえなくなってしまう可能性があるため注意が必要です。

後遺障害が認められない可能性がある

自転車の交通事故の後遺障害のなかには、その認定において治療期間が考慮されていると考えられているものがあります。

例えば、頚椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、頸部の痛み、腰部の痛みが残って後遺障害等級14級が認められるかが問題になると、治療期間や通院頻度が大きな考慮要素とされます。

治療を早期に終了してしまうことにより、そうした後遺障害が認められなくなってしまう可能性があるのです。

一方で、不相当に長期間の通院を続けることで、後遺障害が認められにくくなってしまうケースもあります。

損害賠償請求において治療を一区切りするタイミングは難しいため、弁護士に相談することをお勧めします。

打ち切り後の治療費の請求はできないの?

保険会社に治療費を打ち切られても、自費で治療を続けることは可能です。

それでは、自己負担した治療費について保険会社に請求することはできないのでしょうか。

まず、示談交渉で治療費を認めさせるのは相当に難しいといえます。

保険会社は治療の必要性を認めないとして治療費を打ち切っているわけですから、示談交渉の段階で判断を変えることは考えにくいのです。

そのため、治療費を請求するのであれば、裁判によって請求することを検討することになります。

裁判では、怪我の程度、治療経過等を踏まえ、治療の必要性、相当性について判断されることになりますので、打ち切り後の治療費についても請求が認められる可能性があります。

まとめ

保険会社の担当者から治療費の打ち切りを告げられても、通院をやめてしまう必要はありません。

まずは保険会社の担当者と交渉し、治療費支払いの継続が難しいようであれば、健康保険を利用して自費で通院を続けることを考えます。

また、治療が長期化しているのであれば、医師と症状固定について相談し、症状固定とすべきタイミングについて検討することも考えられます。

西宮原法律事務所の
顧問医のご紹介

顧問医師

顧問医師
濱口 裕之/はまぐち ひろゆき

西宮原法律事務所の顧問医師を務めている濱口裕之です。交通事故被害者の皆様にお伝えしたいことがあります。後遺障害認定においては、主治医が作成する後遺障害診断書や画像検査、各種検査がとても重要です。しかし、多忙な主治医の中には、後遺症を正確に反映した診断書の作成や、後遺障害を証明するために必要な画像検査や各種検査を積極的に提案してくれないケースも珍しくありません。

私が代表を務めているメディカルコンサルティング合同会社は、西宮原法律事務所から依頼を受けた交通事故被害者の方々を、交通事故に詳しい各科の専門医が作成する画像鑑定や医師意見書などでバックアップしています。

私たちは、西宮原法律事務所と連携して、多くの案件で交通事故被害者の後遺障害を証明してきました。このページをご覧になっている交通事故の被害者の方々が、適正な損害賠償を受けられるように、私たちが全力でサポートいたします。安心して西宮原法律事務所にご相談ください。

資格および所属メディカルコンサルティング合同会社 代表医師 兼 CEO
医学博士
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会脊椎脊髄病医
日本リウマチ学会専門医
日本リハビリテーション医学会認定臨床医
弁護士 髙橋裕也

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2007年に弁護士登録後、大阪の法律事務所で交通事故事件を中心とした弁護士業務を行う。
弁護士として15年以上の経験があり、自転車事故の損害賠償事件を多く扱うとともに、自転車事故の専門サイトを立ち上げ、自転車事故の被害者に向けた情報を発信している。
大阪弁護士会の「分野別登録弁護士名簿」に「交通事故分野」で登録しており、大阪弁護士会のホームページに実務経験として自転車事故の解決実績を掲載している。

弁護士(大阪弁護士会所属 登録番号35297)

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