自転車運転者講習の受講命令とは?

弁護士 髙橋裕也

執筆者:西宮原法律事務所

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受講命令

自転車の悪質な運転者に対応するため、平成27年6月1日施行の道路交通法改正により、自転車運転者への講習制度が新設されましたが、どのような制度なのでしょうか?

自転車運転者講習の受講命令について、どのようなときに受講命令を受けるかや、受講命令を無視したときの罰則、自動車運転者講習の内容等について解説していきます。

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自転車運転者講習とは

自転車の運転について危険行為を反復している者に対し、危険を防止するための行政上の措置として自動車運転者講習の受講を命じることができるとされています。

道路交通法108条の3の4は以下のとおり定めています。

第百八条の三の四 公安委員会は、自転車の運転に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反する行為であつて道路における交通の危険を生じさせるおそれのあるものとして政令で定めるもの(次条において「危険行為」という。)を反復してした者が、更に自転車を運転することが道路における交通の危険を生じさせるおそれがあると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、その者に対し、三月を超えない範囲内で期間を定めて、当該期間内に行われる第百八条の二第一項第十四号に掲げる講習(次条において「自転車運転者講習」という。)を受けるべき旨を命ずることができる。

道路交通法108条の3の4の条文のなかに「第108条の2第1項第14号に掲げる講習」とあるところ、道路交通法108条の2第1項第14号には以下のとおり定められています。

第百八条の二 公安委員会は、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる講習を行うものとする。

(中略)

十四 自転車の運転による交通の危険を防止するための講習

引用元:eーGOV法令検索、道路交通法108条の2

このように、道路交通法108条の3の4、同法108条の2第1項第14号で、自転車運転者講習の受講命令が規定されています。

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自転車運転における危険行為とは

自転車運転者講習の受講命令は、危険行為を反復しているものに行われます。

では「危険行為」とはどのようなものをいうのでしょうか。

自転車運転の危険行為について、道路交通法施行令41条の3は以下のとおり定めています。

第四十一条の三 法第百八条の三の四の政令で定める行為は、自転車の運転に関し行われた次に掲げる行為とする。
一 法第七条(信号機の信号等に従う義務)の規定に違反する行為
二 法第八条(通行の禁止等)第一項の規定に違反する行為
三 法第九条(歩行者用道路を通行する車両の義務)の規定に違反する行為
四 法第十七条(通行区分)第一項、第四項又は第六項の規定に違反する行為
五 法第十七条の二(軽車両の路側帯通行)第二項の規定に違反する行為
六 法第三十三条(踏切の通過)第二項の規定に違反する行為
七 法第三十六条(交差点における他の車両等との関係等)の規定に違反する行為
八 法第三十七条(交差点における他の車両等との関係等)の規定に違反する行為
九 法第三十七条の二(環状交差点における他の車両等との関係等)の規定に違反する行為
十 法第四十三条(指定場所における一時停止)の規定に違反する行為
十一 法第六十三条の四(普通自転車の歩道通行)第二項の規定に違反する行為
十二 法第六十三条の九(自転車の制動装置等)第一項の規定に違反する行為
十三 法第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反する行為(法第百十七条の二第一号に規定する酒に酔つた状態でするものに限る。)
十四 法第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為
十五 法第百十七条の二第六号又は法第百十七条の二の二第十一号の罪に当たる行為

引用元:e-GOV法令検索、道路交通法施行令41条の3

それぞれの危険行為について説明していきます。

①信号無視

自転車運転者は信号機の表示する信号に従う義務があります(道路交通法7条)。

信号無視は交通への危険を生じさせるものであり危険行為とされています。

自転車だからといって安易に信号を無視してしまうと、重大な事故を発生させていまいます。

②通行禁止違反

道路標識により自転車の通行を禁止されている道路があります(道路交通法8条1項)。

そうした道路を通行する行為が危険行為とされています。

近道をするために通行禁止の道路を通行して重大な事故を発生させる可能性があります。

③歩行者用道路における車両の義務違反

道路標識で歩行者用道路とされている道路でも、自転車が通行できる場合があるのですが、歩行者への注意義務が課せられています(道路交通法9条)

歩行者への注意義務や徐行義務を怠った運転が危険行為とされています。

これも自転車運転があまり意識していないことなので注意が必要です。

④通行区分違反

自転車は車道を通行しなければならず(道路交通法17条1項)、道路の左側を通行しなければならず(同条4項)、道路標識等で通行できないとされている部分に入ってはならないとされています(同条6項)。

これらの通行区分に違反した運転は危険行為とされています。

⑤路側帯通行時の歩行者の通行妨害

自転車は、路側帯を通行するときは、歩行者の通行を妨げないような速度や方法で通行しなければならないとされています(道路交通法17条の2)。

歩行者の通行を妨げるような速度や方法で通行することが危険行為とされています。

⑥遮断踏切立入り

自転車は、踏切の遮断機が閉じようとしているとき、閉じている間、踏切の警報器が警報している間は踏切に入ってはいけません(道路交通法33条2項)

踏切への立入りが危険行為とされています。

⑦交差点安全進行義務違反等

自転車は、交差点において、左方車や優先道路を進行してくる車両、広い交差道路を進行してくる車両を妨害してはならず、また、安全に進行する義務があります(道路交通法36条)。

交差点を進行する義務に違反することが危険行為とされています。

⑧交差点優先者妨害等

自転車は、交差点で右折するときに、直進車、左折車の進行を妨害してはならないとされています(道路交通法37条)。

こうした進行の妨害が危険行為とされています。

⑨環状交差点安全進行義務違反等

自転車は、環状交差点において環状交差点内の車両の進行を妨害してはならず、また、環状交差点を安全に進行する義務があるとされています(道路交通法37条の2)。

こうした義務に違反することが危険行為とされています。

⑩指定場所一時不停止等

自転車は一時停止の標識がある交差点では一時停止をする義務があり、また、交差道路を進行する車両の妨害をしてはならないとされています(道路交通法43条)。

自転車が指定されて場所で一時停止を行わなかったこと等が危険行為とされています。

⑪歩道通行時の通行方法違反

自転車が歩道を通行するときは、歩道の中央から車道寄りの部分を徐行し、歩行者の通行の妨げになるときは一時停止しなければならないとされています(道路交通法63条の4第2項)。

こうした歩道通行時の方法に違反することが危険行為とされています。

⑫ブレーキ不良自転車運転

自転車の運転者は、基準を満たすブレーキを備えていない自転車を運転してはならないとされています(道路交通法63条の9)。

ブレーキ不良自転車を運転することが危険行為とされています。

⑬酒酔い運転

自転車の酒気帯び運転は禁止されています(道路交通法65条1項)

酒気帯び運転のなかでも、酒酔い運転が危険行為とされています。

⑭安全運転義務違反

自転車運転者は、自転車を安全に運転する義務があるとされています(道路交通法70条)。

こうした安全運転義務に違反することが危険行為とされています。

⑮妨害運転

いわゆる「あおり運転」(道路交通法117条の2第6号、117条の2の2第11号)について危険行為としています。

どのようなときに受講命令を受けるの?

自転車運転者講習の実施命令は、危険行為をしただけで行われるのではなく、危険行為を「反復してした者が、更に自転車を運転することが道路における交通の危険を生じさせるおそれがあると認めるとき」に行われるとされています。

この「反復して・・・」の意味ですが、危険行為を行った日から過去3年以内に別の危険行為をしたこと(今回の危険行為と合わせて2回以上)の危険行為を行ったことを意味するとされています。

これまでに危険行為を行っていたとしても、それが3年前より昔のことであれば、頻繁に危険行為を繰り返しているとは考えられず、将来的に自転車運転で交通の危険を生じさせるおそれがあるとまではいえないためです。

また、将来的に交通の危険を生じさせるおそれがないとして、例えば以下の者は除くとされています。

・ 交通事故により下半身不随となるなど、自転車の運転によって道路における交通の危険を生じさせるおそれが失われたと認められる場合

・ 既に自転車運転者講習を受けた者である場合であって、自転車運転者講習を受講した後の危険行為が2回に満たないとき

引用元:警視庁「モデル処分基準」

受講命令に従わないときの罰則は?

自転車運転者講習の受講命令に従わない場合は5万円以下の罰金とされています(道路交通法120条1項17号)。

受講命令を無視すると罰金処分となってしまいますので注意が必要です。

自転車運転者講習の内容は?

自転車運転者講習の実施について、道路交通法施行規則38条14項は以下のとおり定めています。

法第108条の2第1項第14号に掲げる講習(以下「自転車運転者講習」という。)は、次に定めるところにより行うものとする。

1 運転者としての資質の向上に関すること、自転車の運転について必要な適性並びに道路交通の現状及び交通事故の実態その他の自転車の運転について必要な知識について行うこと。

2 あらかじめ講習計画を作成し、これに基づいて行い、かつ、その方法は、教本、視聴覚教材等必要な教材を用いて行うこと。

3 自転車の運転について必要な適性に関する調査に基づく個別的指導を含むものであること。

4 講習時間は、3時間とすること。

自転車運転者講習の時間は3時間で、手数料は6000円とされています。

まとめ

自転車の危険な運転を防止するために自転車運転者講習の制度ができました。

こうした危険行為を行い、自転車運転者講習の受講命令を受けることのないよう、安全運転を心がけるようにしましょう。

弁護士 髙橋裕也

執筆者

西宮原法律事務所
弁護士 髙橋裕也

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2007年に弁護士登録後、大阪の法律事務所で交通事故事件を中心とした弁護士業務を行う。
弁護士として15年以上の経験があり、自転車事故の損害賠償事件を多く扱うとともに、自転車事故の専門サイトを立ち上げ、自転車事故の被害者に向けた情報を発信している。
大阪弁護士会の「分野別登録弁護士名簿」に「交通事故分野」で登録しており、大阪弁護士会のホームページに実務経験として自転車事故の解決実績を掲載している。

弁護士(大阪弁護士会所属 登録番号35297)

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