慰謝料の増額が認められた事例は?

弁護士 髙橋裕也

執筆者:西宮原法律事務所

弁護士 髙橋裕也

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慰謝料の増額事例

自転車事故の慰謝料には、保険会社基準、裁判基準といった基準がありますが、事情によっては増額が認められる可能性があります。

交通事故の裁判で慰謝料の増額が認められた事例を紹介し、どのような事情が慰謝料の増額事由とされているのか解説していきます。

このページで解決するお悩み

  1. 慰謝料の増額を認めた事例がわかる
  2. 慰謝料の増額が認められる場合がわかる

加害者の事故後の行動から慰謝料の増額を認めた事例

加害者の事故後の行動を理由に精神的苦痛が増したとして慰謝料の増額を認めたものです。

加害者の本人尋問における態度から慰謝料の増額を認めたもの

〇横浜地裁平成22年3月31日判決

裁判所は、被害者の生涯が高次脳機能障害により一変してしまったことについては、「高次脳機能障害の後遺障害の内容に含まれるものである」として、慰謝料の増額事由にはあたらないと判断しましたが、加害者の本人尋問における態度については、以下のとおり慰謝料の増額事由にあたると判断しました。

「被告がその本人尋問において、本件事故の対応を確認しようとする質問に対して反抗し、謝罪の有無を確認しようとした原告ら代理人にも攻撃的であったことからすると、被害者にとっては、被害者の生活は一変したにもかかわらず、加害者が何らかわらない生活を送っていることを明らかにし、被告の反省していない態度を見せられた結果となることからすると、(被害者の)精神的苦痛が増し、慰謝料の増額事由に該当すると認められる。」

加害者の酒気帯び運転、一旦逃走したことを理由に慰謝料を増額したもの

〇東京地裁平成22年2月17日判決

裁判所は、事故による傷害の程度、通院実日数に加え、被告が酒気帯び運転で事故を起こし、事故後しばらくして事故現場に戻ったものの、一旦は逃走していること等を考慮して、通院慰謝料は130万円が相当と判断しました。

加害者の責任を軽減するような挙動を理由に慰謝料を増額したもの

〇横浜地方裁判所平成22年4月14日判決

裁判所は、被告が衝突地点について虚偽の説明をしていたことを理由に、後遺障害慰謝料の増額を認めました。

「原告の後遺障害等級は、併合第14級相当であり、これに対する慰謝料としては110万円が相当である。

原告は、被告の不誠実な対応があったことから、大幅な後遺障害慰謝料の増額が認められるべきであると主張するが、謝罪の有無その他につき、被告本人尋問の結果とは言い分が異なっており、主張事実をそのまま認めることはできない。しかしながら、事故状況に係る指示説明に、責任を軽減するような被告側の挙動があったことから30万円の増額を認める(なお、原告が心因的に反応しやすい性格であり、相当のショックを受けたことは本人尋問の結果から容易に推認することができる。)。」

後遺障害等級14級の基準慰謝料は110万円であるところ、140万円を認めました。

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加害者の配慮を欠いた行動から慰謝料の増額を認めたもの

〇大阪高等裁判所平成21年9月11日判決

裁判所は、加害者の不適切な対応も理由として、以下のとおり慰謝料額(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料)を900万円と認定しました。

「証拠及び被告の本人尋問の結果によれば、被告が本件事故後にXの職場を訪問した上、Xに対し、本件事故後に給与の額が減少していないにもかかわらず、本件事故により保険金を受領したのだとすると、保険金詐欺になるかもしれないなどと述べるなどしたことが認められるところ、前記(1)で認定したXの通院状況及びXの後遺障害の程度及びその内容に加え、上記のような、本件事故後の被告の、被害者であるXの心情に対する配慮を全く欠いた対応等に鑑みれば、Xについての慰謝料の額は、900万円とするのが相当である。」

事故態様、事故直後の行動等から慰謝料の増額を認めた事例

事故態様や加害者の事故直後の行動などから、精神的苦痛が増したとして慰謝料の増額を認めたものです。

加害者が衝突後直ちに停車しなかったこと等から慰謝料の増額を認めたもの

〇東京地方裁判所平成22年5月12日判決

裁判所は、加害者が衝突の瞬間、傘を持った人に車をぶつけたかもしれないと考えながらも直ちに停車しなかったこと、被害者には落ち度はなくボランティア活動を行うなど社会に貢献し、幸福な老後を送っていたにもかかわらず突然に死を余儀なくされた無念さなどを考慮し、2800万円の死亡慰謝料を認めました。

加害者の信号無視等から慰謝料の増額を認めたもの

〇東京地方裁判所平成21年10月19日判決

裁判所は、被害者が民謡教室、チャリティーコンサートを行う一方、妻の介護を献身的に行っていたこと、加害者が帰路を急いで制限速度オーバー、信号無視を行い本件事故を発生させたことを踏まえ、合計3200万円の慰謝料を認めました。

加害者の無免許、飲酒運転等から慰謝料を増額したもの

〇大阪地方裁判所平成18年2月16日判決

裁判所は、以下の理由により慰謝料を合計3900万円としました。

「本件交通事故により、前途ある17歳であった亡Aが死亡しており、その肉体的、精神的苦痛は極めて甚大である。
証拠によれば、以下の事実が認められ、これらの事情に鑑みると、亡Aの肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料の金額は、3000万円とするのが相当である。
(ア) 無免許運転
被告は昭和59年ころ免許取消処分を受けたにもかかわらず、その後免許を取得しないまま、平成13年2月ころ加害車両を購入し、毎日の通勤に使用しており、遵法意識の欠如は著しい。本件交通事故も無免許運転で発生したものである。
(イ) 飲酒運転
被告は飲酒運転が常態化しており、遵法意識の欠如は著しい。本件交通事故も、飲酒の影響で正常な運転ができない程の酩酊状態における運転で発生したものである。
(ウ) 信号無視
被告は、同乗者が「赤やで、ストップ、ストップ。」と制したにもかかわらず、赤信号を無視して本件交差点に進入し、本件交通事故を発生させたものである。
それに対して、亡Aは青信号に従って横断歩道上を自転車で横断走行していたものであって何の落ち度もない。
(エ) 事故直後の被告の行為
被告は、衝突後、頭部から大量の血を流して倒れている亡Aに対して、「危ないやないか。」などと怒鳴りつけ、衣服の一部を引っ張るように持ち上げて揺すり、投げ捨てるように元に戻した。」

症状固定後の治療等を理由に慰謝料の増額を認めた事例

慰謝料には調節的な役割もあるところ、症状固定後の治療等を慰謝料において考慮し増額を認めたものです。

将来的な疼痛、痺れ等の症状の蓋然性を理由に慰謝料を増額したもの

〇大阪高等裁判所平成18年9月28日判決

裁判所は、後遺障害慰謝料につき、以下のとおり将来の治療の必要性等を理由に1500万円としました。

「前記認定のとおり,1審被告は,本件事故により障害等級7級に相当する後遺障害が残ったのみならず,将来的に疼痛,痺れ等の症状が改善と悪化を繰り返す蓋然性が高いことから,1審被告主張のとおり,症状固定後も通院して治療費や交通費を負担したり,RSDの症状の1つであるアロディニアによる疼痛を緩和するため手袋を着用する必要があると推認される。
しかし,治療行為としての必要性,通院の回数,手袋の買換の回数,価格,使用頻度等を含め,いずれも不確定的な要素が強いことに照らすと,アフタケアとしての治療,通院関係の諸費用や手袋の着用については,これらをいずれも慰謝料として斟酌するのが相当であり,以上の諸事実を総合考慮すれば,後遺障害慰謝料としては1500万円を認めるのが相当である。」

逸失利益を否定して慰謝料の増額を認めた事例

慰謝料には調節的な役割もあるところ、逸失利益が認められないかわりに慰謝料として一定程度の考慮をするとして増額を認めたものです。

労働能力喪失に代わる慰謝料として慰謝料の増額を認めたもの

〇横浜地方裁判所平成22年3月24日判決

裁判所は、「そこで、何らかの労働能力喪失(損害)が肯定されるが、その程度乃至範囲を画することができない場合に準じ、その損害は、労働能力の喪失による逸失利益ではなく、慰謝料として考慮することとする」として、後遺障害逸失利益を認めない代わりに、「労働能力喪失に代わる慰謝料」として300万円を認めました。

醜状障害9級の逸失利益を否定し慰謝料の増額を認めたもの

〇大阪地方裁判所平成28年7月8日判決

裁判所は、後遺障害逸失利益について否定し、後遺障害慰謝料につき以下の理由により740万円としました。

「原告の後遺障害が9級相当であることに加え、顔面の瘢痕は、労働能力には直接の影響を与えないとしても、日常的に露出されることによる原告の精神的苦痛は大きいものということができることを考慮し、上記金額を本件事故と相当因果関係のある後遺障害慰謝料と認める。」

醜状傷害9級の逸失利益を否定し慰謝料の増額を認めたもの

〇神戸地方裁判所平成25年3月14日判決

裁判所は、後遺障害逸失利益について否定し、後遺障害慰謝料につき以下の理由により900万円としました。

「上記第2の2(3)及び上記第3の2(1)キの原告の後遺障害の内容、とりわけ、原告の醜状痕が9級に相当するものである上、前項のとおり、労働能力喪失を割合として評価できるほどに至っているとまでは認められないものの、就労に影響を与えること自体は否定できないことを考慮すると、後遺障害慰謝料は900万円とするのが相当である。」

醜状障害による逸失利益を否定し慰謝料の増額を認めたもの

〇大阪地方裁判所平成21年6月30日判決

裁判所は、後遺障害逸失利益について右下肢の機能障害だけが労働能力喪失に影響を及ぼすとして、労働能力喪失率を27%とした上で、後遺障害慰謝料につき以下の理由により720万円としました。

「原告は後遺障害等級併合9級の認定を受けていること、原告が女性であって、両下肢の醜状障害は、未だ小学生の子2名との家族生活を送っていくに当たり、多大な精神的苦痛を及ぼすことが予想されること等の事情も考慮すると、原告の後遺障害慰謝料の額は、720万円をもって相当と認める」

休業損害を否定して慰謝料の増額を認めた事例

休業損害は認めないものの休業を理由として慰謝料の増額を認めたものです。

休業損害を認めず慰謝料を増額したもの

〇大阪地方裁判所平成18年6月14日判決

裁判所は、原告の確定申告額がマイナスであることを踏まえ、以下のとおり休業損害を否定しました。

「確定申告額が原告の収入や所得を正確に反映したものであるかは明らかでないが、これらの額を上回る実額としての収入、所得があったことを裏付ける確たる証拠はない。
以上からすると、前記の休業期間中の損害の発生については、これを認めるに足りる証拠がないといわざるを得ない。」

裁判所は、後遺障害慰謝料については、以下の理由により200万円としたものです。

「 原告は、前提事実(3)のとおり、本件事故により右第3、4趾欠損の後遺障害(後遺障害等級13級10号に相当する。)を負ったものであり、本件事故により2か月以上休業せざるを得なかったことを併せて考慮するならば、後遺障害慰謝料としては200万円を認めるのが相当である」

症状と事故との因果関係を否認し慰謝料の増額を認めた事例

症状と事故との因果関係は認められないものの、一定の考慮をして慰謝料の増額を認めたものです。

切迫流産との因果関係を否認し慰謝料の増額を認めたもの

〇大阪高裁平成22年11月5日判決

裁判所は、切迫流産の7割近くは胎児に原因があり、下腹部への打撃、過労、大きなストレスなどは実際にはほとんど原因にならないと一般に理解されてことなどから、本件事故と切迫流産の因果関係を認めませんでした

一方で、「妊娠期間中に受傷した関係で精神的不安は多大であったと思われることなど」を考慮して、慰謝料の増額を認めたものです。

後遺障害を非該当とし症状の残存から慰謝料の増額を認めたもの

〇新潟地方裁判所平成22年3月25日判決

裁判所は、被害者の残存症状について後遺障害等級には該当しないとしたものの、以下の理由により後遺障害慰謝料を認めました。

「原告には後遺障害等級には該当しないものの、本件事故と相当因果関係の認められる頭重感、ふらつきといった症状が残存していることからすると後遺障害慰謝料を認めるのが相当ではあるが、同慰謝料としては、当該残存症状には原告の心的要因も影響していると考えられること、後記のとおり原告に逸失利益が認められないことを考慮し、80万円を認めるのが相当である。」

PTSD発症を認めず入通院慰謝料を増額したもの

〇名古屋地方裁判所平成22年2月26日判決

裁判所は、原告のPTSDの発症については否認したが、以下のとおり入通院慰謝料を50万円増額しました。

「本件事故と因果関係のある入通院は(略)9か月弱(通院実日数93日)である。この通院期間、通院実日数や前記認定のとおりの受傷の内容、程度等に加え(以上の点だけで、慰謝料の額を135万円相当と判断する。)、前記のとおり、PTSDとは認められないものの本件事故をきっかけにいらだったり抑うつ的になったりしたことも考慮して、障害慰謝料を185万円とする」

その他の損害を考慮して慰謝料の増額を認めた事例

他の損害を慰謝料のなかで考慮して増額を認めたものです。

多額の葬儀費用を負担した心情を考慮し慰謝料を増額したもの

〇京都地方裁判所平成21年11月18日判決

裁判所は、葬儀費用として300万円以上が支払われているが、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費(葬儀費用、墓地代金、墓石代金及び仏具代金等)は150万円と認めると相当であるとし、「ただし、原告らにおいて通常の葬儀費用を超える金額を負担して葬儀を行った心情等については、(本人)及び原告らの慰謝料の算定において、考慮する」として、慰謝料を増額しました。

まとめ

交通事故の裁判では、慰謝料について基本的には基準に基づいた計算が行われますが、色々な事情を考慮した判断が行われることもあります。

特別な事情があるときに、基準額から増額された裁判例を確認してきましたが、こうした慰謝料の増額が認められるためには丁寧な主張、立証が必要となります。

弁護士 髙橋裕也

執筆者

西宮原法律事務所
弁護士 髙橋裕也

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2007年に弁護士登録後、大阪の法律事務所で交通事故事件を中心とした弁護士業務を行う。
弁護士として15年以上の経験があり、自転車事故の損害賠償事件を多く扱うとともに、自転車事故の専門サイトを立ち上げ、自転車事故の被害者に向けた情報を発信している。
大阪弁護士会の「分野別登録弁護士名簿」に「交通事故分野」で登録しており、大阪弁護士会のホームページに実務経験として自転車事故の解決実績を掲載している。

弁護士(大阪弁護士会所属 登録番号35297)

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