自転車事故で休業損害を請求する方法は?

弁護士 髙橋裕也

執筆者:西宮原法律事務所

弁護士 髙橋裕也

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休業損害

自転車事故で怪我をした場合でも休業損害(休業補償)を請求することはできるのでしょうか?

自転車事故による怪我で仕事ができなくなった場合でも休業損害を請求することはできます

サラリーマンであれば休業損害証明書、自営業者であれば確定申告書といった資料で損害を証明して休業損害を請求します。

専業主婦であっても、家事労働ができなくなったことについて休業損害を請求することができます。

自転車の交通事故で休業損害を請求する方法について解説していきます。

このページで解決するお悩み

  1. 自転車事故で休業損害を請求する方法がわかる
  2. 休業損害で必要になる資料がわかる
  3. 休業損害の計算方法がわかる

休業損害とはなにか

休業損害とは、自転車事故による怪我が原因で仕事ができず、収入が減少してしまったことによる損害をいいます。

参照:日本損害保険協会、損害保険Q&A

休業損害は、以下のように計算されます。

基礎収入(日額)×休業日数

休業損害の計算では、基礎収入、休業日数をどのように考えるかが問題になります。

被害者の仕事によって基礎収入の算出方法が異なりますので、給与所得者、事業所得者、専業主婦について解説していきます。

給与所得者の休業損害

給与所得者の休業損害の計算方法について解説していきます。

必要な資料

給与所得者の休業損害を計算するために以下の資料が必要となります。

①休業損害証明書

②事故の前年の源泉徴収票

保険会社から休業損害証明書の書式をもらうことができますので、勤務先に提出して作成を依頼します。

休業損害証明書の書式が何枚も必要なときは、保険会社に依頼して送ってもらってもいいですし、自分でコピーをしても構いません。

勤務先は賃金台帳や出勤簿を確認しながら休業損害証明書を作成します。

事故の前年の源泉徴収票は、ご自宅に保管しているものを提出するか、役所で発行してもらえる所得証明書で代用することになります。

休業損害証明書の見方

休業損害証明書から、休業損害の計算に必要な情報を読み取る方法を解説します。

休業損害証明書

①休業期間

休業損害証明書の対象期間が記載されています。

休業損害証明書には3か月分しか記載できないようになっているので、休業がそれ以上の期間であれば複数枚の作成を依頼することになります。

②休業期間の内訳

①の期間のうち、欠勤日数、有給休暇の日数などが記載されています。

休業損害を「休業の日数」で計算するときは、この日数に基づいて計算することになります。

③欠勤等の日

休業期間のうち、勤務先の所定休日、欠勤した日、有給休暇を取得した日などを記載します。

仕事を休んだ日がいつなのかを把握することができます。

所定休日に×をつけるのを忘れてしまうことがあるので注意が必要です。

④給与支給の有無

仕事を休んでいても、給与が支払われていては損害がないため休業損害を請求することができません。

そのため給与が支払われているかについて記載されます。

ただし、有給休暇を取得した場合は、給与が支払われていても休業損害を請求することができます。

減額した給与額が記載されているときは、その金額を休業損害として考えることができます。

給与が減額されたときには、いくら減額されたのか記載し、その計算式も記載することになります。

⑤直近3か月の給与

事故の直近3か月について稼働日数や給与の支給額が記載されます。

給与に変動があり、直近3か月の給与額で計算することがあまりに不当であれば、他の期間の給与も考慮した金額を主張することが考えられます。

お手もとの給与明細や、会社から賃金台帳の写しを提供してもらい、幅のある期間について給与額を証明していくことになります。

⑥労災、傷病手当金等の支払

労災の休業補償や傷病手当金は損益相殺の対象となるので記載されます。

損益相殺というのは、支払われた金額について差引計算することいい、「二重どり」をすることはできないという意味です。

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休業損害の計算方法

それでは休業損害証明書から休業損害を計算する方法を解説します。

休業損害にはいくつか計算方法があり、正しい計算方法を使わないと損をしてしまう可能性があります。

連続して休業している場合

①基礎収入

基礎収入は直近3か月分の給与を合計し、それを90日で除して算出します。

給与は「本給」と「付加給」を合計した金額で、社会保障や所得税を引く必要はありません。

例えば、「本給」と「付加給」の合計額が90万円であれば、1万円が基礎収入ということになります。

(計算式)90万円÷90日=1万円

②休業日数

大きな怪我をして連続して休んでいるときとは、休業期間全体の日数を休業日数とします。

例えば、入院をして4月1日から5月31日まで連続して仕事を休んだときは、この期間の日数である61日を休業日数とします。

③計算式

基礎収入に休業日数をかけて休業損害を計算します。

先ほどの例だと、基礎収入が1万円、休業日数が61日なので、休業損害は61万円となります。

(計算式)1万円×61日=61万円

連続していない休業の場合

休業が連続しておらず、怪我による症状が酷いとき、通院に必要なとき、抜釘手術を受けるときなど、「とびとび」で仕事を休んだ場合には、連続で休業したときとは異なる計算方法になります。

①基礎収入

基礎収入は直近3か月分の給与を合計し、それを稼働日数で除して算出します。

給与は「本給」と「付加給」を合計した金額で、社会保障や所得税を引く必要はありません。

例えば、「本給」と「付加給」の合計額が90万円で、稼働日数が60日であれば、1万5000円が基礎収入ということになります。

②休業日数

休業日が連続していないときは、休業日を含む期間ではなく、実際に休んだ日数を休業日数とします。

例えば、4月1日から5月31日の間に10日休んだときは、10日が休業日数となります。

休業損害証明書に休業日数の記載があります。

③計算式

基礎収入に休業日数をかけて休業損害を計算します。

先ほどの例だと、基礎収入が1万5000円、休業日数が10日なので、休業損害は15万円となります。

(計算式)1万5000円×10日=15万円

有給休暇について

自転車事故の怪我で有給休暇を取得した場合、給与の支払いは受けていますが、別の目的で使用できたはずの有給休暇が減ってしまったことになります。

そのため、給与をもらえない休業と同じように休業日数に含め、休業損害を請求することができます。

半日だけの有給や、一日のうち数時間だけの有給を取得した場合も、休業損害証明書に記載してもらえば休業損害として認められることになります。

賞与について

仕事を休んで出勤日数が減ったため、賞与(ボーナス)が減額されてしまうことがあります。

これも、自転車事故に遭ったことによる損害ですから、休業損害として請求することができます。

休業損害証明書には賞与の減額は記載されませんので、職場に「賞与減額証明書」という書類を作成してもらい、損害として請求していくことになります。

事業所得者の休業損害

事業所得者の休業損害について解説していきます。

必要な資料

事業所得者の休業損害を請求するために以下の資料が必要となります。

①確定申告書

②青色申告決算書

確定申告書はお手もとの控えを提出するか、紛失している場合は税務署に開示請求を行って入手することになります。

休業損害の計算方法

事業所得者の休業損害については、そもそも「売上げ」「経費」など不確定な要素が多いため、決まった方法で明確な金額を算出することはできません。

以下では、事業所得者の休業損害の算出方法についていくつか解説していきます。

人件費等の経費から損害を算出

怪我でお店に出ることができなくなり、バイトを一人増やして対応した(それにより売上げを維持した)という場合、バイトの人件費を休業損害として考えることができます。

これは、自転車事故がなければ不要であった経費なので、わかりやすい休業損害となります。

ただし、事故に遭われた本人が店に出ないことで、明らかに売上げが低下してしまい、売上げが低下する事情もあるというケース(個人営業の飲食店等)では、この人件費だけを休業損害とするのでは損をしてしまう可能性があります。

事故の前後の所得を比較して算出

事故前の所得と、事故後の所得(休業を含む期間の所得)を比較して、事故により減少した所得を休業損害として請求する方法です。

事業所得者の所得は、確定申告書の所得に青色申告控除額を加えた金額となります。

ただし、事故の前年は特別な事情で売上げが低下していたケースなどでは、このような方法で計算すると損をしてしまう可能性があります。

そのような場合は、事故の数年前まで遡り、「本来の所得」を主張していくことが考えられます。

事故の前年の所得をもとに算出

これまで説明した方法では、休業損害を把握するのに時間がかかってしまい、保険会社に内払いを請求するのも難しくなってしまいます。

そこで、前年の収入をもとに休業損害を計算する方法があります。

これは、以下の計算式で計算するものです。

(事故の前年の所得+固定経費)/365日×休業日数

事故の前年の所得は、確定申告書の所得金額に青色申告控除額を加えたものです。

固定経費というのは、保険料、リース料、賃料など、休業していても必要となる経費のことです。

所得というのは、売上げから経費を除いたものですから(簡単に説明しています)、所得に加えて固定経費も払ってもらえないと、被害者は所得部分から固定経費を払うことになってしまうということです。

自転車事故で仕事ができなくなったときは、この計算方法で保険会社に内払いを求めていくのが一般的です。

専業主婦の休業損害

家事従事者の休業損害について解説していきます。

必要な資料

専業主婦が休業損害を請求するときは、住民票等により家族と同居していることを証明します。

保険会社との示談交渉では、家族構成についての「申告書」を提出するだけで認められることが多いように思います。

その他、事情によって保険会社から追加資料を求められることもあります。

休業損害の計算方法

基礎収入

家事従事者の休業損害の基礎収入は、女性、学歴計、全年齢平均賃金とされます。

ただし、被害者がご高齢である場合には、年齢別の平均賃金とされることもあります。

また、専業主婦だけでなく、パート、アルバイトで労働している場合は、給与収入と平均賃金を比較して高額な方で休業損害を請求できます。

休業日数

休業日数については、仕事を休んだ日数のように明確ではないため、通院期間と家事労働に与えた影響から算出することになります。

例えば、事故から1か月は100%、3か月までは50%として計算することがあります。

怪我の程度、通院状況を丁寧に主張、立証し、相当といえる期間の休業損害を請求するのです。

入院中は100%と評価されますし、ギブス等で固定されている期間も家事への影響は明らかなので、こうした客観的な情報に基づいた主張を行うことも重要です。

休業損害が認められる期間は?

自転車事故による休業損害は、事故により仕事を休めば必ずもらえるというものではありません。

怪我の程度や、仕事の内容を踏まえ、休業することに必要性、相当性が認められなければいけません。

例えば、入院中であれば休業の必要があることは明らかですが(入院に必要性が認められることが前提です)、通院中の休業が長引くと必要性、相当性が争いになることが少なくありません。

医師の意見なども踏まえ、休業の必要性、相当性について判断されることになります。

休業損害を請求する方法は?

自転車事故で休業損害を請求する場面は大きく二つあります。

治療中の請求

自転車事故による怪我の治療中は、損害賠償額が確定しないため具体的な示談交渉の話ができません。

しかし、怪我により仕事ができない状態になってしまったのに、賠償金を全くもらえない状態が続くのでは、被害者は生活ができなくなってしまいます。

そこで、保険会社に対して「内払い」といって、示談前に休業損害の支払いを求めることができるのです。

保険会社に休業損害証明書を提出したり、確定申告書等を提出したりして、内払いの金額を交渉することになります。

なお、主婦による休業損害については、そのお金で生活を維持している(早くもらわないと生活に困る)というわけではありませんので、一般に内払いが認められません。

パートでの労働をしているのであれば、その部分だけ内払いを求めることは考えられます。

示談交渉における請求

治療が一区切りして損害全体について示談交渉を行うときに、休業損害を請求することが考えられます。

必要な期間の休業損害証明書等、全ての資料に基づいて金額を計算し、保険会社に請求してくことになります。

保険会社が休業損害を認めてくれないときは、資料が不足しているのか、休業損害の金額や休業の必要性等について争いになっているのか確認しましょう。

資料が不足しているのであれば速やかに準備する必要がありますし、休業の必要性等について大きな争いがあるのなら裁判も検討することになります。

関連するぺージ

  1. 自転車事故で損害賠償金が支払われるまでの流れは?
  2. 自転車事故の示談交渉の進め方は?

まとめ

自転車事故の休業損害は、被害者の仕事によって計算方法や必要となる資料が異なります。

自転車事故の休業損害では、難しい計算方法をとることもあり、保険会社の提示額が適正でない可能性もあります。

怪我で仕事を休むような自転車事故に遭ったときは、自転車事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士 髙橋裕也

執筆者

西宮原法律事務所
弁護士 髙橋裕也

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2007年に弁護士登録後、大阪の法律事務所で交通事故事件を中心とした弁護士業務を行う。
弁護士として15年以上の経験があり、自転車事故の損害賠償事件を多く扱うとともに、自転車事故の専門サイトを立ち上げ、自転車事故の被害者に向けた情報を発信している。
大阪弁護士会の「分野別登録弁護士名簿」に「交通事故分野」で登録しており、大阪弁護士会のホームページに実務経験として自転車事故の解決実績を掲載している。

弁護士(大阪弁護士会所属 登録番号35297)

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