追い抜き自転車と右方へ進路変更した自転車が衝突した事故
東京地方裁判所平成29年3月7日判決(ウエストロー)
事案
車道において、右斜め後方を走行していた自転車が前方自転車を追い抜こうとしたところ、前方自転車が車道を横断するため右方へ進行したため衝突したという、自転車同士の交通事故です。
以下の事情が考慮されていますので、類似の事故の過失割合の参考にしてください。
- 自転車の進路変更の際の後方確認義務
- 自転車の前方注視義務
過失割合
自転車40% 対 自転車60%
裁判所の判断
裁判所は過失相殺について以下のとおり判断しました。
解説
概要
前方自転車が進路変更したところ、後続自転車が追い越そうとしていたたため衝突した事故です。
両車に過失がありますが、前方自転車の後方安全確認義務違反を重くみて60%の過失割合としています。
自転車にはミラーがなく後方確認が難しいという事情はありますが、やはり進路を変える以上は後方確認を十分に行う義務があるということです。
基本過失割合
自転車事故の過失割合は「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本下巻 日弁連交通事故相談センター )というものを参考にし、過失割合について検討していくことが考えられます。
自転車同士の進路変更による事故の基本過失割合は、先行自転車60%対後続自転車40%とされています。
後方確認義務について
自転車は後続車の速度や方向を急に変更させるおそれがあるような進路変更はしてはならないとされています(道路交通法26条の2第2項)。
つまり、そのようなおそれがある進路変更をすることのないよう、後方を十分に確認する義務もあります。
被告は道路を横断するため後方を十分に確認せずに進行方向を変更した過失があるとされました。
自転車の後方確認義務については自転車が後続車との関係で注意すべきことは?で解説しています。
前方確認義務について
自転車の運転者は「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」とされており、安全運転義務が課せられています(道路交通法70条)。
自転車の前方を注視しながら走行する義務は、こうした安全運転義務を根拠とするものです。
原告も、前方を走行する被告車の動静に十分に注意して走行していなかった過失があるとされました。
- 右斜め前に進行するにあたり、後方の安全確認を怠ったことを過失とした
- 前方自転車の動静に注意すべき義務を行ったことを過失とした
類似の裁判例
裁判例①
歩道上で前方の自転車を追い抜こうとしたところ、前方の自転車がぶれたために衝突してしまったという事故です。
裁判例②
前方の自転車を追い抜いてすぐに右折したため、進路を塞ぐ状態になってしまい衝突したという事故です。
裁判例③
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裁判例④
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裁判例⑤
横断歩道上で高齢女性の自転車を追い抜こうとして衝突したという事故です。
裁判所が認めた慰謝料と損害額
裁判所は、傷害慰謝料120万円を含む150万9825円を損害として認め、過失割合が4割であることから過失相殺後の金額を90万5895円としました。
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