自動車の飲酒運転が厳しく処罰されることについては、みなさんご存じのことだと思います。
自転車の飲酒運転も法律で禁止されているのでしょうか?
自転車の飲酒運転も法律で禁止されています(道路交通法65条1項)。
自転車の酒酔い運転については罰則として5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が定められています(道路交通法117条の2第1項)。
自転車の酒気帯び運転については罰則として3年以下の懲役または50万円以下の以下の罰金が定められています(道路交通法117条の2の2の3項)。
自転車の飲酒運転について、これを禁止する法律や、自転車事故を起こしてしまった場合の過失割合について解説していきます。
自転車の飲酒運転は法律で禁止されているのか?
自転車の飲酒運転は法律で禁止されているのでしょうか?
居酒屋でお酒を飲んだ帰りに自転車で帰宅するといった話を聞かれることもあるかと思いますが、これは法律で明確に禁止されているため違法です。
道路交通法65条1項は以下のとおり定めています。
第65条1項 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。引用元:道路交通法第65条 e-Gov法令検索
「何人も」とは、法令上は、国籍、性別、年齢を問わず、すべての者を意味しますので、飲酒運転が例外的に認められる人はいません。
「酒気を帯びて」とは、社会通念上酒気帯びといわれる状態で、外観上(顔色、呼気等)認知できる状態にあることをいうとされております(体に余分なアルコールが残っていてはいけないということです)。
「車両等」には自転車も含まれますので、お酒に酔って自転車を運転することは法律で禁止されているのです。
自転車の飲酒運転の罰則は
自転車の飲酒運転が禁止されていることはわかりましたが、罰則も定められているのでしょうか?
自転車の酒酔い運転の罰則
自転車の「酒酔い運転」の罰則について、道路交通法117条の2第1項は以下のとおり定めています。
第117条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
引用元:道路交通法第117条の2 e-Gov法令検索
このように、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で自転車を運転した場合には、罰則として5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が定められているのです。
アルコールの影響により正常な運転ができないかどうかは、歩行できるか、直立できるか、きちんと会話ができるかなどの情報から判断されることになります。
体内のアルコール濃度も重要な要素となりますが、酒酔い運転とされる具体的な数値が決められているわけではありません。
自転車の酒気帯び運転の罰則
自動車の酒気帯び運転には罰則はありましたが、これまで自転車の酒気帯び運転について罰則はありませんでした。
酒気帯び運転の罰則については道路交通法117条の2の2の3項に規定があるのですが、「軽車両を除く」として自転車が除外されていたのです。
道路交通法の改正により「自転車以外の軽車両を除く」とされたため、令和6年11月からは自動車と同様に3年以下の懲役または50万円以下の以下の罰金という罰則が適用されることになります。
酒気帯び運転というのは、身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあったものをいい、呼気(吐き出す息のこと)1リットル中のアルコール濃度0.15mg以上と定められています。
これまでは、自転車の酒気帯び運転に罰則はありませんでしたが、こうした法改正があったことに注意が必要です。
自転車の飲酒運転と過失
飲酒運転で自転車事故を起こしてしまうと、自転車事故の過失割合ではどのように考慮されるのでしょうか。
自転車事故の過失割合というのは、被害者にも過失があると賠償金額が減らされてしまうというもので、これによって損賠賠償金の額が大きく変わってしまいます。
せっかく慰謝料などで大きな損害額が認められても、被害者の過失割合が大きいと最終的な賠償金額が大きく減ってしまいます。
逆に、飲酒運転により加害者の過失が大きくなると、被害者の最終的な賠償金額が大きく減らされなくなります。
そのため飲酒運転が過失割合に与える影響が問題となるのです。
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自転車と歩行者の事故
自転車と歩行者の事故の過失割合は、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」を参考に決められることとされています。
自転車事故の過失割合は、事故類型によって決められた「基本過失割合」を、具体的な事情による「修正要素」で修正していくという考え方をとるのですが、酒気帯び運転は「自転車の著しい過失」、酒酔い運転は「自転車の重過失」に当たるとされています。
そして、過失割合の修正要素として、自転車の著しい過失は10%、自転車の重過失は20%ほど不利に修正されることになります。
飲酒運転は違法ですし、事故発生の危険を高めるものといえるため、このように責任が重いと評価されてしまうのです。
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自転車同士の事故
自転車同士の事故の過失割合は、自転車と歩行者の事故と違い別冊判例タイムズ38に記載がありません。
そこで、「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本 下巻 )というものを参考にし、過失割合について検討していくことになります。
自転車同士の事故でも、酒気帯び運転は著しい過失として10%、酒酔い運転は重過失として20%の修正要素とされています。
やはり事故発生の危険を高める事情なので、このように過失割合が大きく修正されるのです。
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加害者の飲酒運転を証明する方法
自転車事故で、相手方が飲酒運転をしていたと考えられるときに、これを証明する方法はあるのでしょうか?
相手方が否定しているときには、飲酒運転を証明するのは非常に難しいのですが、以下の方法から手がかりを得ることが考えられます。
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警察で作成された供述調書
自転車事故が人身事故として扱われると、取り調べや事情聴取で供述調書が作成され、実況見分が行われて実況見分調書が作成されます。
自転車事故が不起訴処分となると、実況見分調書しか謄写(コピー)することができず、実況見分調書の記載から飲酒運転をしていたことを証明するのは難しいです(自転車が蛇行運転するなど、明らかにおかしな走行をしていることが確認できれば別ですが)。
自転車事故が起訴(略式を含む)されていれば、実況見分調書だけでなく、相手方の供述調書も謄写することができます。
そして、相手方が飲酒していたことを供述しており、供述調書にその旨の記載があれば、飲酒運転を証明することができるのです。
自転車事故であれば、飲酒運転について隠さず供述する可能性は低くありませんし、飲酒運転をしたという供述調書について争うことは極めて困難です。
飲酒運転していないのに、「飲酒運転しました」と供述することは考えにくいですし、そのような弁解を裁判官は信用しないでしょう。
このように、飲酒運転を証明するために是非とも供述調書を確認したいところですが、自転車事故では不起訴処分となる可能性が高く、そもそも供述調書を入手できない事故の方が多いことに注意が必要です。
救急活動記録票
自転車事故で怪我をした人が救急車で搬送されると「救急活動記録票」というものが作成されます。
これには、怪我をした人の事故現場での状態や、応急処置の内容などが記載されているのですが、そうした情報の一つとして怪我をした人に「お酒の匂い」がしていないか記載されることになっています。
事故直後にお酒の匂いがしていたのであれば、飲酒運転をしていたことが強く推認されることになります。
そのため、自転車事故の相手方が救急車で運ばれていれば、「救急活動記録票」によりお酒を飲んでいることを証明できる可能性があります。
この「救急活動記録票」ですが、弁護士会を通した手続や、裁判の手続きで入手することができます。
救急搬送された病院のカルテ
救急搬送された病院のカルテには、救急搬送されたときの患者の状況が細かく記載されています。
そうした情報の一つとして、飲酒を伺わせる匂い、挙動等が記載されていることがありますので、こうした記載から飲酒運転を証明することが考えられます。
裁判では、「文書送付嘱託」という手続でカルテの取寄せを行うことができますし、相手方に提出を求めることも考えられます。
裁判での尋問
裁判で過失割合が争いになったときは、当事者の尋問が行われることになりますので、加害者に対して飲酒の有無を聞くことが考えられます。
加害者が嘘をつくことも考えられますが、尋問で嘘をつくわけにはいかないとして、正直に話してもらえる可能性もあります。
事故現場、事故の前の行動、事故後の行動等から、間接的に飲酒の事実が明らかにならないか迫っていくことが考えられます。
まとめ
自転車の飲酒運転は法律で禁止されており、道路交通法の改正により酒酔い運転だけでなく酒気帯び運転にも罰則が適用されるようになるなど、飲酒して自転車を運転することに対する社会の目は厳しくなっています。
飲酒により判断能力などが低下し、事故が発生する危険が高まりますので、飲酒運転は絶対にやめましょう。
自転車事故で過失割合が問題になったときは、飲酒運転によって事故発生の危険を高めたものとして、飲酒運転をしていた側が10%~20%不利に扱われます。
相手方の飲酒運転を立証するのは難しいのですが、警察の記録や、救急の記録を参考にしながら、何か手がかりになるものはないか調査していくことになります。