傘差し自転車同士が見通しの悪い交差点で衝突した事故

大阪地方裁判所平成29年6月20日判決(ウエストロー)

事案

見通しの悪い交差点において、傘を差した自転車同士が衝突したという、自転車同士の交通事故です。

以下の事情が考慮されていますので、類似する事故の過失割合でお悩みの方は参考にしてください。

  • 見通しの悪い交差点
  • 左方優先義務違反
  • 徐行ないし減速なし
  • 傘差し運転
  • 前方不注視
自転車同士(歩道上)の裁判例
自転車同士(車道上)の裁判例

過失割合

過失割合は自転車40%対自転車60%

自転車40% 対 自転車60%

裁判所の判断

裁判所は過失割合について以下のとおり判断しました。

「同事故は、見とおしの悪い交差点における直進する自転車同士の出合い頭事故であり、悪天候のため、双方が傘を差したまま運転していたものである。」

「自転車を含む車両は、左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとする場合、当該交差点において交通整理が行われているとき及び優先道路を進行しているときを除き、徐行しなければならず(道路交通法42条1号)、また、交通整理の行われていない交差点においては、その通行している道路と交差する道路を左方から進行してくる車両の進行妨害をしてはならない(同法36条1項1号)。」

「被告には、前方を注視して安全を確認し、適確にハンドルやブレーキを操作しながら運転すべき義務があるところ、前方の安全確認が不十分となり、ハンドルやブレーキの操作も遅れがちになる傘差し運転を行った著しい過失がある。また、被告には、本件交差点に徐行ないし減速することなく進入して、上記徐行義務に違反した過失がある。」

「一方、原告は、本件交差点に進入する前にブレーキをかけているが、本件交差点に約1.2メートル進入した地点で停止して、被告自転車と接触しており、上記左方優先義務に違反している。また、危険な傘差し運転を行った過失があるという点では、被告と同様である。」

「なお、原告は、被告が傘を右手で差し、顔の前方に傾け、濡れた傘越しに片手運転で本件交差点に進入していると主張する一方、原告自身は傘を左手で差していたと主張するにとどめているが、どちらの運転も前方の安全確認を妨げ、ハンドルやブレーキ操作を誤らせる危険がある点では同じであると考えられ、その危険度の差異も、過失割合の認定上、いずれかをより重く考慮しなければならないようなものではないというべきである。

「本件事故については、当事者双方に過失が認められるが、上記擬制自白により認められる事故態様からすれば、被告の過失がやや原告の過失を上回っており、原告と被告の過失割合は、40対60とするのが相当である。」

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解説

概要

見通しの悪い交差点で、自転車同士が出合い頭に衝突した事故です。

傘差し運転については事故発生の危険を高めるものとして過失と評価されますが、双方とも傘を差していたため傘差しについては双方とも同程度の過失としました。

原告は左方車優先義務に違反している一方で、交差点進入前にブレーキをかけて減速を行っています。

被告は減速、徐行を行っていなかったため、被告の過失の方が重いとされたものです。

基本過失割合

自転車同士の十字路の事故

自転車事故の過失割合は「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本下巻 日弁連交通事故相談センター )というものを参考にし、過失割合について検討していくことが考えられます。

交差点を直進する自転車同士の基本過失割合は、左方自転車45%対右方自転車55%とされています。

交差点では左方車優先のルールがあるため、わずかに左方車の方が過失が小さいとされます。

傘差し運転について

双方とも傘差し運転を行っていた事故です。

傘差し運転は法律により禁止されており、傘差し運転により事故発生の危険を高められると考えられるため、過失として評価される可能性が高いといえます。

自転車の傘差し運転については、こちらで解説しています。

自転車の傘差し運転は許されるか?

原告は、被告の傘の差し方の方がより危険であるという主張をしましたが、裁判所はどちらの運転も前方の安全確認を妨げ、ハンドルやブレーキ操作を誤らせる危険がある点では同じであるとして、過失割合の判断においてどちらかをより重く考慮する必要はないとしました。

徐行義務違反について

自転車は左右の見通しのきかない交差点に進入するときは徐行しなければならないとされています(道路交通法42条)

徐行というのは直ちに停止できるような速度をいい、自転車であれば時速6~8㎞とされています。

自転車の速度については自転車事故で問題となる自転車の速度は?で解説しています。

被告が徐行ないし減速することなく交差点に進入したことが徐行義務に違反するとして、被告の過失を重いと判断する事情としています。

交差点での徐行義務については自転車が交差点を通行するときのルールは?で解説しています。

左方車優先義務について

交差点を通行するときは、左方から走行してくる車両が優先とされています。

そのため、直進する自転車同士の出会い頭の衝突事故であっても、左方から走行してきた自転車の方が少しだけ過失が軽いとされます。

原告自転車が右側、被告自転車が左側から走行してきているため、原告に左方優先義務違反が認められるとされています。

交差点の左方車優先義務については自転車が交差点を通行するときのルールは?で解説しています。

  • 傘差し運転は、前方の安全確認が不十分になりハンドル操作も遅れることから、著しい過失に当たると判断した。
  • 見通しのきかない交差点での徐行義務違反を認めた。
  • 左方優先義務違反も考慮した判断を行った。

類似の裁判例

裁判例①

一方の自転車が、交差点で傘を差しながら徐行せず進行した事故の裁判例です。

傘差し運転がどの程度の過失として評価されるか参考になります。

自転車同士の出会い頭の事故で、一方が傘を差していた事故

裁判所が認めた慰謝料と損害額

裁判所は、入通院慰謝料131万5111円、後遺障害慰謝料110万円を認め、総損害額につき40%の過失相殺を行い、過失相殺後の賠償金額を269万7684円としました。

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