前方自転車が進路変更し追越し自転車と接触した事故

大阪地裁平成31年3月22日判決(ウエストロー)

事案

前方を走行する自転車が進路変更し、後方から追い抜こうとする自転車と接触したという、自転車同士の交通事故です。

以下の事情が考慮されていますので、類似する事故の過失割合でお悩みの方は参考にしてください。

  • 自転車の進路変更
  • 自転車の追越し
  • イヤホンをして自転車を運転
自転車同士(歩道上)の裁判例
自転車同士(車道上)の裁判例

過失割合

過失割合は自転車40%対自転車60%

自転車40% 対 自転車60%

裁判所の判断

裁判所は過失割合について以下のとおり判断しました。

「前記認定事実に照らすと、被告は、被告自転車を運転し、左側に進路を変更するに当たり左方及び左後方を進行する車両の有無及び動静を確認すべき注意義務を負っていたのに、これを怠り、左方及び左後方を進行していた原告自転車の有無及び動静を確認することなく左側に進路を変更した過失により、同車と接触する本件事故を発生させたということができるから、民法709条に基づき、原告が本件事故によって被った損害を賠償する責任を負う。

他方、原告は、被告自転車を追い越そうとするに当たり同車との間に十分な間隔を置き、警音器を鳴らすなどして原告自転車を安全に運転すべき注意義務を負っていたのに、これを怠り、被告自転車との間に十分な間隔を置かず、警音器の音を十分に鳴らすことなく原告自転車を運転し、被告自転車を追い越そうとした過失により、原告自転車の存在を予期することなく進行してきた被告自転車と接触し、本件事故を発生させたということができるから、民法709条に基づき、被告が本件事故によって被った損害を賠償する責任を負う。

このように、本件事故は、前方において進路を変更した被告自転車とその後方から同車を追い越そうとした原告自転車との間で発生したものであって、進路変更車と後続直進車との事故とも、追越車と被追越車との事故ともいうことができるが、原告は、前方において被告自転車が進行していることを確認していたものであり、被告と比較して、原告自転車と被告自転車との接触を予見することがより容易であったといい得ることからすると、本件事故については、原告の過失割合を6割、被告の過失割合を4割として,過失相殺を行うことが相当である。

「なお、原告は、被告に、イヤホンを装着して音楽を聴きつつ被告自転車を運転していたこと等、重大な過失があったことを基礎付ける事情が認められるから、被告の過失割合は9割とするのが相当である旨主張する。

しかし、前記認定事実のとおり、被告は、イヤホンを右耳のみに装着しており、両耳に装着していたわけではなく、原告が警音器の音を十分に鳴らしていれば原告自転車の存在を確認することができる状態にはあったといい得ること等に照らすと、被告がイヤホンを装着して音楽を聴いていたことから直ちに、被告に重大な過失があったものとは評価し難いから、原告の前記主張は採用することができない。」

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解説

概要

裁判所は、本件の事故を「進路変更車と後続車の事故」とも「追越車と被追越車」の事故ともいうことができるとしています。

どちらの事故類型とみるかで基本となる過失割合が全く大きく異なるところ、むしろ具体的な事故状況を踏まえた判断を行おうとしたものです。

その上で、後続車の方が前方車との接触が予見しやすかったとして、後続車の過失を60%としたものです。

なお、イヤホンを片耳につけていたことは過失として評価していませんが、「警音器の音を十分に鳴らしていれば原告自転車の存在を確認することができる状態にはあったといい得る」として、具体的な状況を踏まえた判断を行っています。

基本過失割合

自転車同士の進路変更の事故

自転車同士の追い抜きの事故

自転車事故の過失割合は「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本下巻 日弁連交通事故相談センター )というものを参考にし、過失割合について検討していくことが考えられます。

自転車同士の進路変更による事故の基本過失割合は、先行自転車60%対後続自転車40%とされています。

自転車同士の追い抜きによる事故の基本過失割合は、先行自転車0%対後続自転車100%とされています。

進路変更事故であれば前方自転車の過失が重いと評価されるのに対し、追い抜きによる事故であれば後方自転車に事故発生の責任のほとんどがあると考えられるため、このような違いが生じるのです。

自転車の進路変更

自転車は後続車の速度や方向を急に変更させるおそれがあるような進路変更はしてはならないとされており(道路交通法26条の2第2項)、そのようなおそれがある進路変更をすることのないよう進路変更先や後方を十分に確認する義務もあります。

道路交通法第26条の2

2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。

引用元:道路交通法第26条の2 e-GOV法令検索

前方自転車は左に進路変更するに当たり、左方や後方の安全確認義務違反が認められるとされました。

自転車の後方確認義務については⇒自転車が後続車との関係で注意すべきことは?

自転車の追越し

自転車が追い越しを行う際には、前方自転車との側方距離を十分にとる必要があります。

本件では十分な側方距離をとらず追い越したために接触を招いたとされています。

自転車とイヤホン

イヤホンで音楽を聴くことで、警察官の指示などを聞くことができないような状態で自転車に乗ることは違法とされています。

本件では、右耳だけにイヤホンをしていたことを理由に、過失としては評価していません。

自転車事故とイヤホンについては⇒イヤホンをしながら自転車に乗っても違法じゃないの?

  • 進路変更車と後続車の事故とも、追越車と被追越車の事故ともいうことができるとした
  • 後続車の方が、前方車の動きを確認できるため過失が重いと判断した
  • イヤホンについては片耳にしていただけであり過失として評価しなかった

類似の裁判例

裁判例①

自転車が追い抜きを行い、前方自転車と横に並んだところで接触したという事故です。

追い抜き、追い越しにおける事故として参考になります。

追い抜きの際の接触事故の裁判例

裁判例②

歩道上で自転車が前方自転車を追い抜く際に接触したという事故の裁判例です。

追い抜きの際の事故として参考になります。

歩道上の、自転車の追い抜きの際の事故

裁判例③

前方車が右方へ進路変更して衝突した事故の裁判例です。

前方車の進路変更の事故として参考になります。

追い抜き自転車と右方へ進路変更した自転車が衝突した事故

裁判所が認めた慰謝料と損害額

裁判所は、傷害慰謝料80万円を含む82万1106円を損害として認め、40%の過失相殺をした後の49万2663円の請求を認めました。

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