前方自転車を後続自転車が追い抜く際に接触した事故の裁判例
令和元年10月29日東京地裁判決(ウエストロー)
事案
自転車が追い抜きの際に、前方自転車の右ハンドルに接触し転倒させたという、自転車対自転車の交通事故です。
以下の事情が考慮されています。
- 自転車の追い抜き
- 追抜きの際の側方間隔不十分
過失割合
自転車0% 対 自転車100%
裁判所の判断
裁判所は過失割合について以下のとおり判断しました。
解説
概要
本件では、事故状況に大きな争いがありました。
控訴人は前方自転車が蛇行運転をしており、大きく進路変更してきたため衝突したものであるとの主張がありましたが、このような事故ではないとして側方間隔不十分により事故が発生したと認定されました。
追抜きの際の事故については、基本的には追い抜き自転車(後続自転車)の過失が重いとされるのですが、前方自転車の「大きなふらつき」「進路変更」などが主張されることも少なくありません。
こうした事故では、事実としてどのような事故状況であったかを主張、立証し、被害者には過失相殺を行うべき過失などないことを主張していくことになります。
自転車は全くふらつかずに走行することはできませんので、過失として考慮されるのは大きなふらつきがあった場合です。
人身事故であれば実況見分調書を入手することができますので、これを利用して側方間隔等について主張を行っていくことが考えられます。
基本過失割合
自転車事故の過失割合は「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本下巻 日弁連交通事故相談センター )というものを参考にし、過失割合について検討していくことが考えられます。
追抜きの際の接触事故の基本過失割合は前方自転車0%対後続自転車100%とされています。
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側方間隔を保持する義務
自転車が前方の自転車を追い抜くときは、安全に追い抜きができるよう十分な側方間隔を保持する義務があります。
側方間隔というのは自転車と自転車が並んだときの横の間隔のことです。
十分な側方間隔がなければ接触して事故になりますし、接触しなくても近い距離で追い抜きをされることで、前方自転車が転倒してしまう危険があるからです。
これは、自転車の安全運転義務(道路交通法70条)から求められるものです。
側方間隔については実況見分調書を入手することにより立証できます。
実況見分調書には事故時の自転車の動きだけでなく、各地点における距離も記載されていますので、「前方自転車と○mしか離れていない状態で追い抜きを行った」と主張することができます。
類似の裁判例
裁判例①
後方の自転車が狭い道路でベルを鳴らすことなく追抜きをし、前方自転車は左後方の安全確認をせずに左折したという事故です。
⇒歩道上で先行自転車の前輪と追い抜き自転車の後輪が接触した事故
裁判例②
後方の自転車が傘を差しながら追抜きをし、前方の自転車に若干のふらつきが認められたという事故です。
裁判例③
後方の自転車が追抜きを行おうとし、前方の自転車が後方の安全を十分に確認することなく右へ進路変更したという事故です。
裁判例④
後方の自転車が追抜きを行おうとしたところ、前方の自転車が二人乗りでふらついていたため衝突したという事故です。
裁判例⑤
自転車が直進していたところ、後方から衝突してきた自転車に衝突された事故です。
裁判所が認めた慰謝料と損害額
裁判所は、傷害慰謝料67万円を含む67万8556円を損害として認め、過失相殺を行いませんでした。