自転車事故では、前方を走行する自転車と、後方から走行してくる自転車の事故も少なくありません。
被害者が後方の自転車にあたる場合、前方の自転車の運転者へ損害賠償請求するために、前方自転車にはどのような注意義務があるのかが問題となります。
これは、自転車の交通事故において過失相殺の主張をされたときに、過失割合を決めるときにも意味を持つものです。
自転車は、急ブレーキ、急な進路変更は禁止されており、右左折をするときには後方を十分に確認する義務があります。
自転車が後続車との関係で注意すべきことや、自転車同士の追い抜き事故、進路変更自転車の事故の過失割合について解説します。
このページで解決するお悩み
- 自転車同士の追い抜き事故の過失割合がわかる
- 自転車同士の追突事故の過失割合がわかる
- 自転車の後方確認義務についてわかる
その他のQ&A
自転車の急ブレーキの禁止
道路交通法24条は、危険を防止するためやむを得ないときを除き、急停止や、急ブレーキをかけてはいけないとしています。
第二十四条 車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両等を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない。
危険を防止するためやむを得ないときとは、直前に歩行者が飛び出してきたり、前方自転車が急に進路変更をしたときなど、衝突の危険を避ける必要があるときをいいます。
自転車が急ブレーキをかけ、後続自転車に追突された事故においては、急ブレーキをかけたことが過失として評価されることとなります。
追突された運転者は、直前に歩行者が飛び出してきたことなど、「やむを得ない」といえる事情を、主張、立証して反論していくことが考えられます。
また、急ブレーキの事故では、複数台の自転車が関わる事故もありますので、各自転車の過失についてどのように考えるか問題になります。
進路変更の禁止
道路交通法26条の2第2項は、後続車の速度や方向を急に変更させるおそれがあるような進路変更はしてはならないと定めています。
後続車が危険を感じて急ブレーキや、急ハンドルを行う必要がないよう、後方を十分に確認してから進路変更を行う必要があります。
ただし、自転車の後方確認については、自動車と違ってサイドミラーがないことを考慮する裁判例があります。
また、前方自転車が進路変更をしたために発生した事故と、後続自転車の追い抜きの際に発生した事故では、過失の評価が大きく異なることとなりますので、この点に注意が必要です。
事故状況が重要となる事故では、きちんと人身事故にした上で、実況見分を実施してもらうことが重要といえます。
右左折における後方確認の義務
自転車で右左折をするにあたっては、後続直進車と衝突する危険がありますので、後方の安全を確認する義務があります。
これは道路交通法70条の定める安全義務により認められる義務と考えられています。
自転車で後方の安全確認が不十分なまま右左折を行ってしまい、後方から来た自転車に衝突されてしまった場合、基本的には右左折を行った自転車側の方の過失が重くなってしまいます。
自動車と異なり、自転車で右左折するときには後方の安全確認がおろそかになってしまいがちなので、注意をしながら運転しなければなりません。
また、自転車が右左折するときの事故では、交差点を右左折する方法を守っていたかが問題になることもあります。
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後続自転車と衝突した事故の過失割合
先行する自転車と、後続する自転車が衝突した事故の過失割合について解説していきます。
自転車と自転車の事故の過失割合はどのように決まるのでしょうか?
自転車事故の類型によって「基本過失割合」があり、これを「修正要素」により修正し、類似の裁判例も参考にしながら過失割合が決められることになります。
以下では、「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」にある「基本過失割合」を紹介していきたいと思います。
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追抜車と被追抜車の事故
後ろの自転車が、前の自転車の横を通過して、前の自転車の進路上に出た場合の事故です。
基本過失割合
先行車 | 後続車 |
0% | 100% |
追抜車と被追抜車の事故については、自動車同士の事故とは異なり先行車に20%もの過失を認めるのは相当でないとして、基本過失割合を0%対100%とする考えが示されています。
自転車の場合、先行車が後ろを確認しながら走行するのは難しいため、このような考えが示されているのです。
保険会社から自動車と同様の過失割合を示されることも考えられますので注意が必要です。
進路変更車と後続直進車の事故
前の自転車が進路変更し、後ろの自転車が直進して衝突した事故です。
基本過失割合
後続車 | 先行車 |
40% | 60% |
自転車の場合は先行車が後方を確認するのが困難であり、一方で後方車は先行車との衝突回避が容易であるという特殊性を踏まえ、先行車60%対後行車40%とする考えが示されています。
右(左)折車と後続直進車の事故
前の自転車が交差点を右(左)折することにより、後ろから直進してくる自転車の進路を塞いでしまい衝突する事故です。
基本過失割合
後続車 | 先行車 |
35% | 65% |
自動車同士の事故と異なり、自転車の場合は基本過失を先行車65%対後続車35%とする考えが示されています。
関連する裁判例
自転車が後続車と衝突した事故の裁判例です。
裁判例①
⇒歩道上で左折のため進路変更した自転車と後続直進自転車が衝突した事故
先行車が左へ進路変更したところ、左後方にいた後続車と衝突したという事故です。
裁判例②
⇒歩道上で前方自転車が急左折し、後方直進自転車と衝突した事故
歩道上で先行車が急左折し、進路を塞がれた後続車が衝突したという事故です。
裁判例③
⇒歩道上で先行自転車の前輪と追い抜き自転車の後輪が接触した事故
歩道上の先行車が左に進路変更したところ、追い抜こうとした後続車と衝突したという事故です。
裁判例④
歩道上の自転車同士の追い抜きの際の事故です。
裁判例⑤
車道上で前方車を追い抜こうとしたところ、前方車が進路変更したため衝突したという事故です。
裁判例⑥
追い抜き後の右折により衝突した事故です。
裁判例⑦
自転車同士の追い抜きの際の接触事故です。
裁判例⑧
先行車が荷物を拾うために急ブレーキをかけたところ後続車が追突したという事故です。
裁判例⑨
歩道上で先行する二人乗り自転車がふらついたため、追い抜こうとした後続車と衝突したという事故です。
まとめ
自転車で急ブレーキを行うと、後方自転車との関係で過失として評価されることがあります。
また、自転車で進路変更をするときは後方の安全確認が求められます。
安全を確認せずに進路変更し、後方自転車と衝突してしまうと大きな過失があるとされてしまいますので注意しないといけません。