自転車事故の事情聴取や、実況見分では、どのようなことに気をつければいいのでしょうか?
誘導を受けるような場面があっても、とにかく記憶のとおり話をし、そのとおり調書を作成してもらうということが重要です。
自転車事故が人身事故になると、警察で事情聴取や実況見分が行われ、供述調書、実況見分調書が作成されます。
自転車事故の被害者の立場でも、警察を相手に話をするのは緊張しますし、間違ったことをしていないか不安に思われるはずです。
自転車の交通事故の実況見分や事情聴取は、損害賠償請求で過失割合が争いになったときに大きな意味を持つことがありますので、慎重に対応する必要があります。
自転車事故の事情聴取や実況見分で注意することについて解説します。
このページで解決するお悩み
- 自転車事故の実況見分で注意することがわかる
- 自転車事故の事情聴取で注意することがわかる
- 警察でどのような手続きをするのかわかる
警察で事情聴取や実況見分が行われる事故は?
自転車事故でも人身事故であれば事情聴取や実況見分が行われます。
人身事故というのは被害者が怪我をした事故のことで、警察に診断書を提出することで人身事故として扱われることになります。
人身事故のときの捜査について大阪府警の説明を引用します。
Q6 交通事故を起こし相手がケガをした場合、その後はどうなりますか。
A6
人身事故の場合、警察は、過失運転致死傷罪等の刑事事件として、必要な捜査を行い検察庁等に送致します。速やかな事件手続きを進めるためにも実況見分や供述調書作成などの捜査に協力して下さい。また、事故の内容においては運転免許の停止や取消などの行政処分の対象になることもあります。このほか相手の治療費などについては、相手との民事上の交渉も必要となる場合があります。
自転車事故で怪我をしたのに物損事故になってるケースが少なくありませんが、物損事故では実況見分調書が作成されないため、事故状況が争いになったときに必要な資料がなくて困ることになります。
怪我をしたのであれば物損事故ではなく人身事故にすることを強くお勧めします。
自転車事故の実況見分とは?
実況見分は、事故の当事者が事故現場に立ち会い、事故が起きた経過、状況を説明するなどするものです。
実況見分は、加害者に過失があるか判断するための情報を集めるために行われ、基本的に以下の二つの目的があるとされています。
- 現場の道路や周囲の状況などを明らかにすること
- 事故が起こった経過や状況を明らかにすること
そのため、実況見分に立ち会った、加害者、被害者、目撃者は、事故の経過や状況について説明することになります。
加害者立会いの実況見分は必ず行われますが、被害者立会いの実況見分については行われる場合と行われない場合があります。
双方が怪我をした事故では、双方が加害者であり被害者でもありますので、双方が立会人となった実況見分調書を作成することになります。
実況見分で作成される書類は?
実況見分の結果に基づいて実況見分調書が作成されます。
実況見分調書には、実況見分の目的にあるとおり、現場の道路や周囲の状況が記録されていますし、立ち会った人の指示説明も記録されています。
また、警察では軽微な事故について「簡約特例書式」で捜査書類を作成することが認められており、この場合は実況見分調書ではなく、現場の見分状況書が作成されます。
現場の見分状況書は、実況見分調書より情報量が少ないので、せっかく謄写(コピー)したのに求めている情報が得られないこともあります。
実況見分で確認されることは?
実況見分で事故現場に立ち会ったときにどのようなことが聞かれるのでしょうか?
自転車の事故では、基本的には事故が起こった経過や状況について確認されることになります。
例えば、自転車と歩行者の衝突事故で、歩行者が道路を横断中の事故であれば、以下のようなことを聞かれることが予想されます。
- 自転車の進行経路
- 加害者が前方を確認せずに進行するようになった地点
- 加害者が歩行者を発見した地点(そのときの歩行者の地点)
- 加害者がブレーキをかけた地点(そのときの歩行者の地点)
- 自転車と歩行者が衝突した地点
- 歩行者の転倒地点
- 自転車の停止地点
被害者も実況見分に立ち会う場合は、以下の点も確認されるはずです。
- 道路の横断を開始した地点
- 道路を横断した経路
- 自転車と衝突した地点
なかなか難しい作業ですが、できるだけ正確に記憶の通り説明するよう心がけましょう。
実況見分の立会いで気をつけることは?
実況見分に立ち会う際に気をつけることはなんでしょう?
実況見分の際には、相手を発見した地点などについて説明を求められますので、記憶のとおり説明することが重要となります。
警察官が、事故の相手方の説明と一致させるために、誘導するような聞き方をしてくる場合もありますので注意が必要です。
裁判で事故状況が争いになったときに、実況見分での説明と異なる事故状況を主張するのはとても大変です。
保険会社側から、「なぜ、実況見分のときに、記憶と異なる説明をしたのですか?」「警察は、あなたの説明と異なる、嘘の実況見分調書を作成したというのですか?」などと厳しく追及されてしまいます。
実況見分の立会いの際には、警察官から何を言われても、とにかく記憶のとおり説明することを徹底してください。
実況見分調書の入手方法は?
警察が自転車の交通事故で作成した実況見分調書は、検察庁で謄写(コピー)することができます。
捜査中に謄写することはできないので、加害者について「不起訴」「起訴」といった処分が決まったあとに手続を行うことになります。
警察で謄写手続に必要な情報を聞いて、検察庁で謄写の手続を行うことができますが、過失割合で大きく争いになっているのであれば、この段階で弁護士に相談いただいた方がよいかと思います。
また、加害者が20歳未満であれば少年事件として扱われるため、家庭裁判所で記録を入手することになります。
保管期間が経過していて実況見分調書を入手できないというケースもありますので注意が必要です。
実況見分調書の利用方法は?
実況見分調書には多くの情報が記録されていますので、事故状況に争いがある事件では必須の資料といえます。
具体的に、実況見分調書を活用していく方法について解説していきます。
事故現場の状況の確認
市販の地図や、ネット上の地図で事故現場の状況を確認しようとしても、詳細な情報を得るのは難しいものです。
実況見分調書の図面は非常に詳細ですし、道路の幅や、重要地点からの距離も測定されていますので、事故現場の状況を確認するのにとても役立ちます。
事故状況の確認
実況見分調書には、自転車が移動した経路や、歩行者の動きなどが記載されていますので、自転車と歩行者の位置関係などから主張できることが多くあります。
自転車同士の傷をつき合わせた写真が添付されていることもあり、自転車のぶつかり方を確認する資料とすることもできます。
また、目撃者が立会人となっている実況見分調書もあり、事故状況に争いのある事故では非常に大きな意味を持ちます。
加害者の説明の確認
実況見分調書には、加害者の説明として「脇見をしながら走行を開始した地点」などと、不注意な運転を行っていた旨の記載がある場合も少なくありません。
実況見分調書は、加害者の過失について判断するための資料なので、過失の有無と関連する情報が記載されるのです。
こうした情報は、過失割合を争う上で極めて重要な意味を持ちますので、確認するようにしましょう。
加害者の供述の変遷の確認
加害者が主張している事故状況と、実況見分調書の説明が異なることがあります。
裁判になれば、加害者の説明が「変遷している」として、信用性が認められないと判断される可能性が高まります。
加害者の説明する事故状況が変遷していないか確認するためにも、実況見分調書を入手することは不可欠といえます。
自転車や事故現場の写真
実況見分調書には、事故現場の図面だけでなく、事故現場の見通しがわかる写真や、当事者が乗っていた自転車の写真が添付されていることもあります。
これも、事故状況や過失割合について検討するのに非常に意味のある資料となります。
自転車事故の事情聴取とは?
自転車事故の事情聴取とは、警察が事故の当事者から事故の状況などを聞き取ることをいいます。
被害者と加害者の違いですが、加害者は「過失傷害罪」「重過失傷害罪」の被疑者として扱われているため、黙秘権の告知が行われるという違いがあります。
事情聴取で作成される書類は?
自転車事故の被害者が警察で事情聴取を受けると、一般に「被害者供述調書」というタイトルの供述調書が作成されます。
一方、加害者については「被疑者供述調書」というタイトルの供述調書が作成されるのが一般的です。
これは、交通事故の定型の書式で作成される場合なので、ただの「供述調書」というタイトルで作成されることもあります。
供述調書というのは被害者や加害者の説明を聞き取って作成された文書です。
警察で事情聴取を受けるときには、警察官が作成した供述調書に間違いないか確認して、間違いがなければ署名、押印をするという手続が行われます。
事情聴取で聞かれることは?
自転車事故の事情聴取では、一般に以下のことを聞かれます。
- 事故に遭ったこと
- どこに向かおうとしていたか
- 相手方の情報
- 事故の状況
- 事故の原因
- 自分の落ち度
- 怪我
- 自転車の損害
- 治療代等
- 相手への処罰感情
- 告訴する意思の有無
歩行者で事故に遭った場合など、「自分の落ち度」を聞かれて困惑される方は少なくありませんが、必ず聞かれる質問なので気にする必要はありません。
事情聴取で気をつけることは?
自転車事故の事情聴取では、とにかく記憶のとおり説明することが重要です。
加害者の説明と一致していないときなど、警察から「記憶違いではないか?」と言われることもありますが、自身の記憶とのとおり説明するようにしましょう。
また、事情聴取では加害者に対する処罰感情も聞かれます。
これは、加害者の処分を決める要素の一つなので、これまでの対応が不誠実であれば厳罰を望むと回答しても構いませんし、特に不満がなければ処罰を望まないとしても構いません。
ここで述べる処罰感情が、損害賠償金に直接的に影響することはありません。
供述調書の入手方法は?
供述調書の入手方法ですが、実況見分調書と同様に検察庁でコピーをすることになります。
ただし、加害者が起訴されていないときには供述調書を入手することはできませんので、自転車事故で供述調書を入手できるケースは多くありません。
加害者が未成年のときは家庭裁判所で刑事記録をコピーをすることになり、このときには供述調書もコピーすることができます。
供述調書から得られる情報は多いのですが、必ず入手できるわけではないということに注意が必要です。
供述調書の利用方法は?
自転車事故で供述調書が入手できたときに、これをどのように活用すればいいのでしょうか?
まず、被害者本人の供述調書については、警察への説明と、現在の説明が一致している(変遷がない)と主張する材料になります。
加害者の供述調書ですが、加害者が「速めの速度で走行していました」「スマホを見ながら走行していました」などと供述していることがありますので、有利な情報としてそのまま利用できます。
また、加害者の供述内容が、現在主張している事故状況と違うものであれば、「加害者の説明は途中で変わっているため信用できない」と主張することができます。
まとめ
自転車事故の人身事故では事情聴取や実況見分が行われますが、損害賠償請求で大きな意味を持つことがありますので、記憶のとおり正確に説明するよう心がけましょう。
また、事故状況が争いになったときは、供述調書、実況見分調書を入手することが重要となります。
こうした手続を被害者自身で行うのは大変なので、弁護士に依頼することをお勧めします。