自転車事故の過失割合はどのように決まるの?
自転車事故の過失割合はどのようにして決まるのでしょうか?
自転車事故の過失割合は、「基本過失割合」を「修正要素」によって修正し、類似の裁判例も参考にしつつ決定するという考え方をとります。
まずは保険会社との交渉により決めるのですが、話し合いがまとまらないときは裁判により裁判所が決めることになります。
以下では、自転車の交通事故の過失割合の考え方や、過失割合の争い方、自転車事故の過失割合の裁判例について解説していきます。
目次
自転車事故専門サイトでは自転車事故を専門的に解説していますので、疑問やお悩みがある方は参考にして下さい。
1自転車事故の過失割合とは?
自転車事故の過失割合とは、自転車事故が起きたことについて、どちらの側に、どれだけの責任があるかを割合で示したものです。
被害者にも過失があると、その過失の分だけ賠償額が減らされてしまうため、保険会社から支払われるお金が減ってしまいます。
過失割合について大阪地方裁判所の説明を引用します。
交通事故においては,交通事故のいずれかの当事者に一方的に過失がある場合もありますが,双方に過失がある場合も少なくありません。その場合には,過失相殺が行われます。例えば,交通事故において,原告の過失が2割,被告の過失が8割と認められると,原告の損害に2割の過失相殺を行い,残りの8割について被告が損害賠償責任を負うことになります。(例えば,原告の損害が100万円で,原告に2割の過失がある場合には,2割の過失相殺(20万円を100万円から控除がされて,被告が損害賠償責任を負うのは80万円ということになります。但し,他の減額事由がある場合もあります。)
引用元:最高裁判所ホームページ
このように、過失割合によって損害賠償額は大きく変わってしまうので、自転車事故の過失割合を正しく理解する必要があるのです。
2自転車事故の過失割合を決めるのは誰?
自転車事故の過失割合は警察が決めてくれるわけではありません。
保険会社との交渉中であれば話し合いで決めることになりますし、裁判をするのであれば裁判官の判断により決められることになります。
裁判所の過失割合の考え方について、大阪地方裁判所の説明を引用します。
このように,交通事故においては過失割合の認定が重要となりますが,裁判所は,交通事故における過失割合の認定においては,これまでの裁判例などを参考にしながら,事案に応じて,個別具体的な事情を勘案して,過失の有無及び割合を認定しています。
引用元:最高裁判所ホームページ
裁判では、自転車事故の具体的な事情を理解してもらい、過去の裁判例を踏まえた主張を行っていく必要があることがわかります。
保険会社との交渉でも同様で、事故の具体的な状況や、過去の裁判例を参考にしながら話し合いが行われます。
3自転車事故の過失割合の決め方は?
自転車事故の過失割合について正しく理解するため、過失割合がどのような考え方で決められるかを解説していきたいと思います。
自転車事故の過失割合は、「基本過失割合」を「修正要素」によって修正し、類似の裁判例も参考にしつつ決定するという考え方をとります。
保険会社も、裁判所も、基本的にはこの考え方をとりますので、反論をするときには十分に意識する必要があります。
ただし、あくまで基本的な考え方なので、事故状況によっては「事故を回避することは不可能だった」「加害者の運転は極めて危険なものであった」として、こうした考え方から離れて過失割合を主張することもあります。
基本過失割合
「基本過失割合」というのは、事故の類型によって決められた基本となる過失割合のことです。
例えば、「交差点での赤信号自転車と青信号自転車の事故」「自転車と歩行者の歩道上での事故」といった、大まかな事故の状況によって、基本となる過失割合が決められているのです。
修正要素
「修正要素」というのは、詳しい事故の状況を踏まえて「基本過失割合」を修正する(割合を変更する)ものです。
例えば、「高速度での交差点への進入」「道路への急な飛び出し」といった具体的な事故状況を踏まえて、過失割合を被害者に有利に修正したり、不利に修正したりするものです。
類似の裁判例
類似の裁判例を参考にするというのは、過去の裁判所の判決のなかで事故の状況が似ているものを探し、その裁判例での過失割合を参考にするということです。
「基本過失割合」と「修正要素」だけでは、妥当な過失割合を導くことが難しい自転車事故もありますので、類似の裁判例を探すのは大切なことです。
4自転車事故の過失割合の検討方法
自転車事故の過失割合の考え方を説明してきましたが、具体的にどのようにして過失割合を検討すればよいのでしょうか。
自転車事故の過失割合の具体的な検討方法を説明します。
事故状況の確認
過失割合を検討する出発点となるのが事故状況なので、こちらの主張する事故状況だけでなく、加害者の主張する事故状況を確認します。
両者の主張する事故状況が同じであれば問題ありませんが、事故状況に争いがあれば対応を考えなければなりません。
まずは、警察で作成された実況見分調書等の謄写(コピー)を行い、加害者が警察で行った説明を確認します。
保険会社が、実況見分調書等を踏まえて譲歩する(こちらの主張が正しいと認める)こともありますので、こうした資料を入手するのは必須といえます。
事故状況に争いがあり、事故状況によって過失割合が大きく変わるため折り合いがつかないということであれば、裁判による解決も考えなければいけません。
基本過失割合の確認
事故状況に争いがなければ、事故の類型を踏まえて基本過失割合を確認します。
事故状況によっては、どの基本過失割合が適用されるのかわかりにくいものもありますので、不利な基本過失割合を前提にして話しが進まないよう注意が必要です。
自転車と歩行者の事故と、自転車同士の事故では、基本過失割合について参考にする文献が異なりますので、以下のページで解説しています。
修正要素の確認
具体的な事故状況から、基本過失割合を修正できる修正要素がないか確認します。
事故状況に争いがなければ、「どの基本過失割合を採用するか」について争いになることは少ないですが、修正要素について「修正要素とされる事実があるか」「修正要素として考慮すべきか」という点で争いになることは少なくありません。
どのような修正要素があるのか、以下のページで詳しく解説しています。
類似の裁判例の確認
自転車は一般の車道以外も走行でき、自動車よりも複雑な動きができるため、自転車事故は定型的な事故状況のものばかりではありません。
自転車事故の事故状況から、どの基本過失割合も当てはまらないと思われるときは、類似の裁判例を参考に過失割合を検討することになります。
また、基本過失割合、修正要素から導き出された過失割合が妥当ではないと思われるときも、類似の裁判例による修正を考えることになります。
5自転車と歩行者の事故の過失割合
自転車と歩行者の事故の過失割合について詳しく説明していきます。
自転車と歩行者の事故の過失割合については、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」(参考⇒判例タイムズ社 )で基本過失割合と修正要素が示されています。
東京地裁の裁判官による研究会の考えが示されたもので、これを参考にしながら過失割合を検討するのが一般的です。
以下の説明は、この別冊判例タイムズ38に基づいたものです。
自転車と歩行者の事故の基本過失割合
自転車と歩行者の事故は、「横断歩行者の事故」、「対向又は同一方向進行歩行者の事故」、「道路外や車道から歩道、路側帯に進入してきた歩行者の事故」で分類されて過失割合が示されています。
自転車と歩行者の事故の基本過失割合のうち、主なものは以下のとおりです。
自転車と歩行者の事故の修正要素
自転車と歩行者の事故の過失割合について、「修正要素」をいくつか説明していきます。
児童・高齢者、幼児・身体障害者等
児童・高齢者、幼児・身体障害者等については、被害者に有利な修正要素とされています。
「児童」とは6歳以上13歳未満の者、「幼児」とは6歳未満の者、「高齢者」とはおおむね65歳以上の者、「身体障害者等」とは身体障害者用の車いすを通行させているなどの条件を満たす者をいいます。
住宅街、商店街等
人の横断、通行が激しい場所を想定しており、歩行者に有利な修正がなされます。
事故現場の画像、地図等により、住宅街、商店街等にあたることを主張していきます。
直前直後横断・佇立・後退、急な飛び出し
歩行者が道路を横断したときの事故で、歩行者に自転車の直前、直後の横断、立ち止まり、後退、急な飛び出しがあるときは、修正要素とされることがあります。
普通に道路を横断したつもりなのに、「急な飛び出し」等を主張されることは少なくありません。
具体的な状況を踏まえた判断になりますが、別冊判例タイムズ38に「実務上、自転車側が、歩行者の飛び出し等を主張する例は少なくないが、この判断は慎重になされることを要する」と記載されているとおり、簡単に認められるべき修正要素ではありません。
横断禁止の規制あり
横断禁止の規制がある場所の横断については、歩行者の過失が重いとされます。
ただし、「横断禁止の規制あり」とは、横断禁止の道路標識やガードレール、フェンス等で横断禁止であることが容易に認識できることを前提にしているので、横断禁止であることがわかりにくい場所であれば、「横断禁止の規制あり」による修正は認められないと争うことも考えられます。
歩道における「急な飛び出し」
歩道における事故において、歩行者の「急な飛び出し」が修正要素とされているものがあります。
これは、歩行者が予想外に大きくふらつくなどして、自転車の前方に急に飛び出すなどした場合を想定しています。
自転車が道路交通法に従って通行していることが大前提となりますので、自転車が「歩道の中央から車道寄りの部分を徐行」していない場合には修正されません。
自転車の著しい過失
自転車の著しい過失として、2人乗り、無灯火、片手運転、携帯電話の使用などがあります。
こうした無灯火、携帯電話の使用等については、加害者が否定したときにどのように立証するかという問題があります。
まずは刑事記録を謄写(コピー)して、加害者が警察に対して認めていないか確認することになります。
⇒自転車の二人乗り等については、自転車の二人乗り、自転車の無灯火、自転車の傘差し運転、自転車の携帯電話の使用で詳しく解説しています。
自転車の重過失
自転車の過失として、著しい過失よりも重い、「重大な過失」があり、酒酔い運転、ブレーキのない自転車の運転などがこれにあたるとされています。
⇒自転車の酒酔い運転については、自転車の飲酒運転で詳しく解説しています。
自転車と歩行者の事故の裁判例
自転車と歩行者の事故の裁判例について、歩道上で発生したもの、車道上で発生したものに分けて多数紹介し、裁判所が過失割合を判断するにあたり重視したポイントを解説しています。
6自転車同士の事故の過失割合
自転車同士の事故の過失割合について詳しく説明していきます。
自転車同士の事故の過失割合については、自転車と歩行者の事故と違い別冊判例タイムズ38に記載がありません。
そこで、「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本 下巻 参考⇒日弁連交通事故相談センター )というものを参考にし、過失割合について検討していくことが考えられます。
以下の説明は、この「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」に基づいたものです。
自転車同士の事故の基本過失割合
自転車同士の事故の過失割合は「直進自転車のいわゆる出会い頭の事故」「対向方向に進行する自転車同士の事故」「同一方向に進行する自転車同士の事故」に分類されて過失割合が示されています。
自転車同士の事故の基本過失割合のうち、主なものは以下のとおりです。
自転車同士の事故の修正要素
自転車同士の事故の過失割合について、修正要素をいくつか説明していきます。
児童、高齢者修正
児童、高齢者等については、自転車対自転車の事故においても被害者に有利な修正要素となります。
ただし、自転車対自転車の事故の場合、相手方も怪我をしており、双方とも加害者であり被害者であるということもあります。
こうした事故で、当事者が双方とも児童、高齢者であったときに、過失割合の修正をどのように考えていくかが問題となります。
児童、高齢者について過失割合を修正する根拠は弱者保護にありますので、加害者も児童、高齢者だからといって被害者を保護する必要性がなくなることはありません。
そこで、被害者として受けとる賠償金を計算する場面では、児童、高齢者として過失割合を有利に修正し、加害者として支払う賠償金を計算する場面では有利に修正しないという考え方が示されています。
高速度進入
交差点の事故で共通する修正要素として、高速度進入、著しい高速度進入があり、高速度進入は概ね時速20㎞を超えた場合、著しい高速度進入は概ね時速30㎞を超えた場合とされています。
先行車のふらつき
追抜車と被追抜車の事故では、「先行車のふらつき」が10%~20%の修正要素とされています。
ただし、自転車が走行するときは、多少は車体が揺れてしまいますので、通常予想される程度の揺れは「先行車のふらつき」にあたらないとされています。
左側通行義務違反
自転車同士の正面衝突事故で、右側を走行して左側通行義務違反が認められるときは、10%~20%の修正要素とする考え方が示されています。
側方間隔不十分
進路変更による後続自転車との事故、右左折による後続自転車との事故では、側方間隔不十分が10%~20%の修正要素とされています。
進路変更や右左折のときには後方を確認しないといけないため、前方を走行する自転車の過失の方が重いとされます。
しかし、後続車も先行車と距離を保って走行しないといけないため、後続車が前方車に接近して走行していたことが後修正要素とされるものです。
著しい過失、重過失
著しい過失、重過失として、片手運転、携帯電話の使用、イヤホン・ヘッドホンの使用、二人乗り等があり、著しい過失については10%、重過失については20%の修正を行うものとし、修正要素が重複することも踏まえ10~30%の修正を行うという考えが示されています。
⇒自転車の二人乗り等については、自転車の二人乗り、自転車の無灯火、自転車の傘差し運転、自転車の携帯電話の使用で詳しく解説しています。
自転車同士の事故の裁判例
自転車同士の事故の裁判例を、歩道上で発生したもの、車道上で発生したものに分けて多数紹介し、裁判所が過失割合を判断するにあたり重視したポイントを解説しています。
7自転車事故の裁判例
自転車事故の裁判例を紹介しています。
裁判所が過失割合を判断するにあたり重視したポイントを参考にしてください。
まずは事故状況、事故現場について徹底的に資料を収集する必要があります。
刑事記録や、車両の損傷部位、防犯カメラ映像等、事故状況に関する資料を集め、事故状況を把握します。
自転車事故では、自動車事故と異なる考え方をする場面も少なくありません。
西宮原法律事務所では、自転車事故に特有の事情が問題となる事故につきましても、的確に過失割合の主張を行っていきます。
自転車事故の過失割合では、類似の事故状況の裁判例が極めて重要となますので、自転車事故の裁判例を研究しデータベース化しています。