自転車が交差点を通行するルールには、どのようなものがあるのでしょうか?
自転車が交差点を通行するときのルールとして、左方自転車の優先、広路の優先、見通しの悪い交差点での徐行義務などがあります。
自転車が交差点を通行するときのルールや、自転車同士の交差点での事故の過失割合について解説していきます。
交差点で徐行をする義務
自転車の交差点での徐行
自転車も交差点で徐行しなければならない場合があります。
道路交通法42条は、自転車は「左右の見通しがきかない交差点に入ろうと」するときには徐行しなければならないとされています。
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
二 道路のまがりかど附近、上り坂の頂上附近又は勾こう配の急な下り坂を通行するとき。引用元:e-Gov法令検索
「見通しがきかない」とは、交差点に入る前の段階で塀や看板などにより、道路の左右を見通し安全確認ができないことをいいます。
また、道路のまがり角付近、上り坂の頂上付近、勾配の急な下り坂でも徐行しなければならないとされています。
徐行とは、道路交通法2条1項20号で「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。」とされており、自転車の場合には時速6~8㎞程度と考えられています。
このように、自転車で見通しの悪い交差点を通行するのに、徐行することなく進行してしまうと、徐行義務違反となる可能性があります。
自転車事故で過失割合が争いになったときに、事故現場の具体的な状況を踏まえて、徐行義務違反が考慮されることがあります。
徐行義務違反を証明する方法
交差点の見通しについては、事故現場を色々な方向から写真撮影したり、撮影に行くのが大変であればGoogleマップを利用することも考えられます。
自転車事故が人身事故であれば、警察で「実況見分調書」というものが作成されており、見通しの状況(良いか悪いか)も記載されています。
自転車の速度については、「実況見分調書」からわかる自転車の移動距離や、自転車がブレーキをかけてから停止するまでの距離が参考になります。
例えば、加害者の移動距離が、被害者の移動距離の2倍であれば、それだけの高速度で走行していたという主張につなげることができます。
自転車事故によっては、加害者や被害者の「供述調書」が入手できる場合もあり、自転車の速度について書かれていることもあります。
供述調書の初めの方に自転車の速度について供述している部分があり、「時速〇〇㎞で走行していました」「速めの速度で走行していました」などと記載されていることがあります。
参考になる裁判例
自転車にも徐行義務があるため、徐行義務違反が過失割合に影響することもあります。
自転車の徐行義務違反を考慮して過失割合が決められた裁判例を紹介します。
裁判例①
自転車同士の事故で、一方の自転車に徐行義務違反が認められた事故の裁判例です。
裁判例②
自転車同士の事故で、見通しのきかない交差点の事故なので徐行義務違反が問題とされました。
裁判例③
自転車同士の事故で双方ともに徐行義務違反が認められました。
交差点での左方車の優先
左方車を優先させる義務
自転車は、「交通整理の行われていない交差点」では、交差点を左方から進行してくる車両の進行妨害をしてはならないとされています(道路交通法36条1項)。
第三十六条 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、次項の規定が適用される場合を除き、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に掲げる車両等の進行妨害をしてはならない。
一 車両である場合 その通行している道路と交差する道路(以下「交差道路」という。)を左方から進行してくる車両及び交差道路を通行する路面電車
「交通整理が行われていない交差点」とは、信号機の設置などで交通整理が行われていない交差点のことをいいます。
左方車の進行妨害をしてはならないとされているため、左方車が優先されるということになります。
自動車の運転免許を取得していないと、左方車の優先についてなかなか知る機会がありませんが、自転車でも適用がありますので注意が必要です。
自転車事故の過失割合では、左方車が優先される結果、左方車の方が過失が軽いと評価される可能性があります。
ただし、自転車運転者にとって左方車優先というのはそこまで馴染みのあるルールではありませんので、左方車優先を全く考慮しない裁判例もあります。
左方車であることを証明する方法
自転車同士の交差点での事故では、どちらが左方車にあたるか証明するのは難しくありません。
事故現場の地図や、実況見分調書から主張していくことが考えられます。
自動車対自動車の事故であれば基本過失割合が「右方車60%対左方車40%」とされていますが、自転車対自転車の事故では基本過失割合が「右方車55%対左方車45%」とされています。
自転車同士の事故の方が、右方車の責任が軽いと考えられているわけですが、これはなぜでしょうか。
まず、自転車の運転者は道路交通法を十分に理解していると限らず、左方車を優先しなかったことが自動車の運転者ほど強く責められないという点があります。
自転車は免許制ではないため、道路交通法の左方車の優先を知る機会がなく運転されている方も多いのです。
そして、自転車は自動車よりも低速度なので、左方車にとっても事故を回避できる可能性が高いことを理由に、自動車同士の事故とは異なる過失割合とされています。
参考になる裁判例
交差点の出会頭の衝突事故で、左方車、右方車を考慮して過失割合が決められた裁判例を紹介します。
裁判例①
一方の自転車に左方優先義務違反が認められた事故です。
裁判例②
過失割合を決めるときに左方車であることが考慮されました。
交差点での広路の優先
自転車は、交通整理の行われていない交差点において、交差する道路の幅が明らかに広いときは、その道路を進行してくる車両の進行妨害をしてはならないとされています(道路交通法36条3項)。
第三十六条
(中略)
3 車両等(優先道路を通行している車両等を除く。)は、交通整理の行なわれていない交差点に入ろうとする場合において、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、徐行しなければならない。
交差点の広い方の道路(広路)を走行してくる車両が優先されることとなり、自転車同士の出会い頭の衝突事故でも、広路を走行する自転車の過失が軽いと評価される可能性があります。
左方から走行してくる車両と、広い方の道路を走行してくる車両の関係ですが、広い方の道路を走行してくる車両が優先とされています。
道路幅を比較した「明らかに広い」の意味ですが、その幅が一見して何人にも明らかに広いと認められる場合をいい、実際の道路状況等に照らして判断されます。
そのため、道路幅に多少の差があっても優先関係は認められないことになります。
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広路であることを証明する方法
実況見分調書で道路幅を確認したり、事故現場の写真を撮影して、まずは道路の状況を把握します。
その上で、「明らかに広い」といえるほど道路幅に差があるか検討していくことになります。
地図上の道路幅では広そうに見えても、実際の道路の状況からは「明らかに広い」といいにくい事故現場もありますので、実際の事故現場の状況を確認することが重要です。
自転車事故の裁判でも、実況見分調書で道路幅を主張して終わりではなく、事故現場の写真を提出することが多いです。
まとめ
自転車も見通しの悪い交差点などで徐行義務を負うことがあります。
交差点では明らかに広い道路が優先され、左方車の優先というルールもあります。
自転車が交差点を通行するときのルールに違反すると、被害者でも大きな過失があるといわれて損害賠償金が減額されてしまうことがあるため注意が必要です。