自転車事故では、加害者の運転する自転車が高速度で走行していた事故も少なくありません。
自転車事故で過失割合が争いになったときに、過失が重いとされる速度は時速何㎞からなのでしょうか?
自転車が、交差点に高速度(概ね時速20㎞を超える速度)で進入した場合、著しい高速度(概ね時速30㎞を超える速度)で進入した場合には、高速度走行を理由に過失割合を重くすると考えられています。
自転車事故の過失割合で問題となる自転車の速度や、自転車の速度の証明方法について解説していきます。
このページで解決するお悩み
- 高速度で走行する自転車の事故の過失割合がわかる
自転車や歩行者の一般的な速度
自転車の一般的な速度は時速約15㎞、歩行者の一般的な速度は時速約4㎞と考えられており、自転車が徐行する速度(直ちに停止できるような速度)は時速6~8㎞と考えられています。
自転車事故における基本的な過失割合は、自転車がこうした速度で走行していることを前提にしているため、これを大きく外れた速度で走行していたときには、過失割合を修正していく必要があります。
なお、自転車も道路標識等で最高速度が指定されているときは、その最高速度を守らないとならないとされています(道路交通法22条1項)。
自転車事故で過失とされる速度
自転車事故で、自転車の速度が過失とされてしまうことはあるのでしょうか。
自転車事故の過失割合と自転車の速度について解説していきます。
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自転車と歩行者の事故
自転車と歩行者の事故の過失割合については、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」で基本過失割合と修正要素が示されています。
ここでは、自転車と歩行者の事故の過失割合について、自転車が普通の速度である時速15㎞程度で走行していることが前提とされています。
そして、原付自転車と同程度の速度である時速30㎞程度で走行していた場合には、自転車対歩行者の事故ではなく、単車と歩行者の事故として過失割合を検討するのが相当とされています。
自転車と自転車の事故
自転車同士の事故の過失割合については、自転車と歩行者の事故と違い別冊判例タイムズ38に記載がありません。
そこで、「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」(赤本 下巻 )というものを参考にし、過失割合について検討していくことになります。
自転車同士の交差点での事故は、自転車の速度により事故発生の危険が高まるため、高速度で交差点に進入したことが過失割合の修正要素とされています。
自転車が、交差点に高速度(概ね時速20㎞を超える速度)で進入した場合には10%、著しい高速度(概ね時速30㎞を超える速度)で進入した場合には20%の修正を行うものとされています。
ただし、過失割合は機械的に決まるものではないため、交差点の状況を踏まえて速度を考慮した判断が行われることもあります。
例えば、見通しの悪い交差点を進行するにあたり、相当程度の速度で走行していたとして過失を重いとみるような事案です。
自転車の速度が問題となる事故状況
自転車の速度について道路交通法上の規制があるときは、これに反した速度で走行したとして過失と評価されることがあります。
自転車が歩道を通行できるときは、道路の中央より車道寄りを徐行する義務がありますので、歩道で徐行をしていなければ過失として評価されます。
また、自転車は横断歩道に接近する場合は、横断歩道の手前で停止できる速度で走行する義務がありますので、そうした低速度で走行していなければ過失として評価されることになります。
自転車の速度が問題となった裁判例
自転車事故の裁判例で、自転車の速度を理由に過失割合を判断したものを紹介します。
裁判例①
自転車同士の出会い頭の事故で、加害者が下り坂で高速度であった事故
自転車が下り坂を高速度で走行していたことを重視して過失を重いと判断しました。
裁判例②
自転車同士の出会い頭の衝突事故で、一方が高速度で直進していた事故
自転車同士の出合い頭の衝突事故ですが、双方の自転車の速度に大きな差があったことを考慮しました。
自転車の速度とブレーキの性能
自転車のブレーキについて、道路交通法第63条の9第1項は以下のように規定してます。
第六十三条の九 自転車の運転者は、内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車を運転してはならない。
ブレーキについて内閣府令で定める基準に適合することが求められています。
道路交通法施行規則9条の3は、ブレーキに性能について以下のように規定してます。
第九条の三 法第六十三条の九第一項の内閣府令で定める基準は、次の各号に掲げるとおりとする。
一 前車輪及び後車輪を制動すること。
二 乾燥した平たんな舗装路面において、制動初速度が十キロメートル毎時のとき、制動装置の操作を開始した場所から三メートル以内の距離で円滑に自転車を停止させる性能を有すること。
このように、時速10㎞で走行したときに、ブレーキをかけて3m以内に停止できることが求められています。
警察もブレーキの性能を確かめてから自転車に乗るよう呼びかけています。
乗る前に確認しましょう!
ブレーキは前輪及び後輪にかかり、時速10キロメートルのとき、3メートル以内の距離で停止させることができること。引用元:警視庁、自転車の交通ルール
自転車にブレーキがない場合は、道路交通法に違反するだけなく、明らかに大きな危険を生じさせるものですから、自転車事故の過失割合では重過失として評価されることになります。
また、自転車のブレーキが性能不足であった場合には、その不足の程度によって著しい過失、重過失として考慮されることとなります。
自転車の速度を証明する方法
自転車事故で加害者の自転車が高速度で走行していても、その速度を証明するのはなかなか難しいものです。
保険会社との示談交渉で説得できないときは、裁判で損害賠償請求を行うことも検討する必要があります。
ここでは自転車の高速度を証明するための方法を解説していきます。
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実況見分調書
自転車事故が人身事故であった場合は実況見分が行われ、加害者が指示説明した実況見分調書のコピーを入手することができます。
実況見分調書には自転車の速度は記載されていませんので、実況見分調書から直ちに速度を読み取ることはできません。
しかし、加害者の自転車の移動する距離と、被害者の自転車の移動する距離を比較できる場合があり、その移動距離から速度の主張ができる場合があります。
例えば、加害者が実況見分調書で以下のような指示説明をし、警察が距離を測定していることがあります。
- 相手を初めに発見した地点①、そのときの相手の位置Ⓐ
- 危険を感じた地点②、そのときの相手の位置Ⓑ
- ①~②の距離25m、Ⓐ~Ⓑの距離5m
加害者の移動距離は、被害者の移動距離の5倍なので、被害者の5倍の速度で走行していたといえ、相当の高速度で走行していたと主張することができるのです。
また、衝突後の両自転車の動きに基づいて主張することも考えられます。
一方の自転車が衝突地点でその場で転倒し、もう一方の自転車が衝突後も相手自転車を押し倒すようにして走行し続けたのであれば、衝突後も走行し続けた自転車の方が速度が高かったと言いやすいでしょう(その他の事情も考慮する必要があるため、当然に主張できることではありませんが)。
このように、実況見分調書から自転車の速度について主張立証が行われることは少なくありません。
供述調書
加害者が起訴された場合には、供述調書のコピーを入手することができます。
加害者の供述調書は定型の書式を使うのが一般的なのですが、速度について記載する箇所がありますので、「速めの速度で走行していました」などと記載されていることがあります。
こうした記載から、加害者の自転車の速度は高速度であったと主張していくことが考えられます。
自転車の損傷状況
被害者の自転車の損傷の程度から、加害者の自転車の速度について主張することが考えられます。
被害者の自転車の損傷が激しい場合には、加害者の自転車が相当に高速度で衝突してきたことが推測されると主張するものです。
被害者の怪我の程度
被害者が重い怪我をしていれば、加害者の自転車に高速度で衝突されたため重傷を負ったものであると主張することが考えられます。
また、歩道では自転車は徐行義務があるところ、「怪我の重さから、少なくとも徐行していたとは考えられない」と主張することも考えられます。
自転車の特徴
加害者の自転車がスポーツタイプのものであっても、それだけで高速度で走行していたとはいえません(意識すれば徐行することは可能だからです)。
しかし、スピードが出やすいわけですから、その他の事情と組み合わせることにより、高速度走行を裏付ける事情になるといえます。
道路の状況
事故現場が急な坂道であれば、意識的に減速しなければ高速度で走行してしまうということはいえます。
実況見分調書には、事故現場の傾斜について記載されていることも多いので確認してみましょう。
供述調書には、「下り坂なのでブレーキで減速しながら走行していました」「下り坂なので速めの速度でした」などと記載されていることがあります。
また、図面だけでは道路の状況がわかりにくいこともあるため、裁判では事故現場の写真を提出することも重要です。
まとめ
自転車の一般的な速度が想定されており、これよりも速い速度で走行していると過失として評価される可能性があります。
自転車の速度を証明するのは簡単ではありませんが、刑事記録や事故現場の状況等から立証していくことが考えられます。
自転車の速度については自転車事故の過失割合において大きな意味を持ちます。
加害者の自転車が高速度であったことを証明するのは簡単ではないですが、有利な証拠がないか可能な限り資料を集めるようにしましょう。