自転車と歩行者の歩道上の事故の過失割合は?

弁護士 髙橋裕也

執筆者:西宮原法律事務所

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自転車が歩道で歩行者に衝突した交通事故について、過失割合はどのように決まるのでしょうか。

保険会社との示談交渉では、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」や、類似の裁判例を参考にしながら過失割合について話し合われます。

また、保険会社と合意できないときは裁判を起こすことになるため、自転車と歩行者の交通事故の過失割合を最終的に決めるのは裁判所となります

歩道上の自転車事故の過失割合がどのように決められるのか解説していきます。

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  1. 自転車と歩行者の歩道上の事故の過失割合がわかる
  2. 歩道上の事故の事例がわかる
自転車と歩行者(歩道上)の裁判例

自転車と歩行者の交通事故の過失割合の考え方

自転車と歩行者の交通事故の過失割合については、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」で基本過失割合と修正要素が示されています。

裁判でも、別冊判例タイムズ38で示された基準を重視して過失割合を判断しますので、この基準を十分に理解して保険会社に反論できるようになることが重要です。

自転車と歩行者の歩道上の交通事故については、歩行者と直進自転車の事故(どちらも歩道を通行していた)、歩道に進入した歩行者と自転車の事故、歩道に進入した自転車と歩行者の事故にわけられています。

以下では、別冊判例タイムズ38に従って過失割合を解説していきます。

自転車が歩道を通行するときのルール

自転車もこのような標識等で自転車通行可とされている歩道は通行が認められています。

自転車が歩道を通行するときは、中央から車道寄りの部分(道路標示で普通自転車通行部分の指定があるときは、その指定部分)を徐行しなければならず、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げるときは一時停止しなければならないとされています。

大阪府警察の説明を引用します。

歩道を通行する場合は、歩道の中央から車道寄りの部分を通行しなければならない。
歩道を通行する場合、すぐ停止できるような速度で徐行すること。
歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。
自転車通行指定部分がある時は、指定部分を通行しなければならない。

引用元:大阪府警察、自転車の交通安全ルールブック

自転車と歩行者の歩道上の事故でも、歩行者に過失が認められるケースがあるのですが、自転車がこうしたルールを守って走行していることが大前提となっています。

例えば、歩行者がお店から出てすぐに自転車に衝突されたのであれば、自転車は「歩道の中央から車道寄りの部分を通行する」というルールを守っていなかったわけですから、歩行者に過失が認められることは考えにくいといえます。

保険会社から歩行者にも過失があると主張されたときには、歩行者に過失がないという観点だけでなく、自転車が道路交通法に違反した走行をしているという観点からも反論していくことが重要となります。

また、保険会社が把握している事故状況が曖昧ということも考えられますので、刑事記録を入手して提供することも考えましょう。

参考ページ:自転車も歩道を通行できるの?

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歩道上の歩行者と直進する自転車が衝突した交通事故の過失割合

基本過失割合

自転車と歩行者の歩道直進での事故

歩道の歩行者に直進する自転車が衝突した事故では、基本過失割合が自転車100%対歩行者0%とされています。

自転車と歩行者の歩道上の事故の基本過失割合

歩道は歩行者が優先して通行できると定められているため、歩行者に非常に有利な判断が行われるのです。

歩道上の自転車対歩行者の事故では、歩行者に簡単に過失が認められるものではないのです。

急な飛び出し

歩行者に「急な飛び出し」が認められたときは、歩行者に不利に5%の修正を行うこととされています。

「急な飛び出し」とは、歩行者が大きくふらつくなどして、自転車の前方に急に飛び出してきた場合などを想定しています。

自転車運転者にとって、「まさか歩行者がこのような動きをするとは想像もできなかった」といえるような動きをしたのであれば、歩行者にも過失を認めるのが相当であるということです。

ただし、自転車が歩道を通行するときのルールを守っていることが大前提となり、自転車がルールを守っていないときには「急な飛び出し」による修正は行われません。

保険会社から「急な飛び出し」を主張されたときは、詳しい事故状況が記録された実況見分調書などを入手し、そもそも自転車が歩道を通行するルールを守っていないか確認しましょう。

自転車通行指定部分の通行

歩道に自転車通行指定部分があるときは、自転車は指定された部分を通行しなければなりません(道路交通法63条の4第2項)。

歩行者は、自転車通行指定部分を避けて通行する努力義務があります(道路交通法10条3項)。

歩行者が自転車通行指定部分を通行していたことが過失とされるか問題になりますが、努力義務であることも踏まえ、このことだけで過失割合を修正すべきではないと考えられています。

参考となる裁判例

裁判所が歩道上の歩行者と直進する自転車過失割合について判断した裁判例です。

歩道上で自転車が歩行者に正面から衝突した事故

歩道上で歩行者に自転車が正面から衝突した事故

歩道上の歩行者に自転車が後方から衝突した事故

歩道において歩行者と対向自転車が接触した事故

歩道上で自転車を押していた歩行者に自転車が衝突した事故

歩道で携帯電話を使用する歩行者に自転車が衝突した事故

歩道上において視力障害を有する歩行者に自転車が衝突した事故

歩道上において急に向きを変えた歩行者に自転車が衝突した事故

歩行者が歩道に進入した交通事故の過失割合

基本過失割合

歩行者が歩道へ進入した事故

歩行者が歩道に進入し、歩道の自転車と衝突した事故では、基本過失割合は自転車100%対歩行者0%とされています。

歩行者が歩道に進入した場合の事故の基本過失割合

歩道は歩行者が優先とされているため、歩行者が歩道に進入した事故でも基本過失割合は100対0とされているのです。

保険会社から歩行者にも過失があると主張されがちな事故態様ですが、基本的には過失は認められないのです。

急な飛び出し

歩行者が歩道に進入したときに、自転車の前方に急に飛び出す「急な飛び出し」が認められるときは、歩行者に不利に10%の修正が行われます。

例えば、横断歩道の信号が赤になる前に渡ろうとして、急に走り出して自転車の前に飛び出した場合などが考えられます。

ただし、自転車が歩道を通行するときのルールを守っていることが大前提となり、自転車がルールを守っていないときには「急な飛び出し」による修正は行われません。

保険会社から「急な飛び出し」を主張されたときは、自転車が歩道を通行するときのルールを守っているか確認し、ルールに違反した走行をしていればこれを指摘しましょう。

参考になる裁判例

裁判所が歩行者が歩道に進入した事故の過失割合について判断した裁判例です。

歩道において自宅門から出た歩行者に、坂道を下る自転車が衝突した事故

歩道上で自転車が歩行者に衝突し、急な飛び出しが争点となった事故

歩道において店舗から出てきた歩行者に自転車が衝突した事故

荷物を運びながら歩道を横切った高齢者に自転車が衝突した事故

歩道において歩行者に自転車が衝突した事故

自転車が歩道に進入した交通事故の過失割合

基本過失割合

自転車が歩道に進入し、歩道上の歩行者に衝突した事故については、基本過失割合が自転車100%対歩行者0%とされています。

修正要素

自転車が歩道に進入した事故では、歩行者に不利に修正する修正要素は想定されていません。

歩道を通行する歩行者の保護は絶対的といってもよく、このような状況で歩行者に過失が認められることは考えにくいためです。

自転車は、歩道上の安全確認を十分に行った上で歩道に進入しなければならないのです。

参考になる裁判例

裁判所が自転車が歩道に進入した事故の過失割合について判断した裁判例です。

歩道上の歩行者に交差点から歩道に進入した自転車が衝突した事故

一時停止なく駐輪場から歩道へ進入した自転車が歩行者に衝突した事故

まとめ

自転車と歩行者の歩道上の事故では、簡単に歩行者に過失が認められることはありません。

自転車が道路交通法に定められた方法で走行し、歩行者が危険を高める行動をとっていたときに過失が認められるものであり、裁判所も歩行者の過失を認めることに慎重な傾向があります。

保険会社から被害者にも過失があると主張されたら、そのまま示談せずに弁護士に相談することを強くおすすめします。

弁護士 髙橋裕也

執筆者

西宮原法律事務所
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2007年に弁護士登録後、大阪の法律事務所で交通事故事件を中心とした弁護士業務を行う。
弁護士として15年以上の経験があり、自転車事故の損害賠償事件を多く扱うとともに、自転車事故の専門サイトを立ち上げ、自転車事故の被害者に向けた情報を発信している。
大阪弁護士会の「分野別登録弁護士名簿」に「交通事故分野」で登録しており、大阪弁護士会のホームページに実務経験として自転車事故の解決実績を掲載している。

弁護士(大阪弁護士会所属 登録番号35297)

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