自転車で歩道を通行することは許されるのでしょうか?
自転車は原則として歩道を通行できませんが、標識等で許されている場合などは通行することができます。
ただし、歩道を通行できるときも、歩道の中央より車道寄りを徐行しないといけないなど、厳格なルールに従って走行する義務があります。
自転車の歩道通行が許される場合や、歩道をどのように通行しなければならないかについて説明し、自転車の歩道上の交通事故の過失割合についても解説していきます。
このページで解決するお悩み
- 自転車が歩道を通行できる場合がわかる
- 自転車が歩道を通行するときのルールがわかる
- 自転車と歩行者の歩道上の事故の過失割合がわかる
自転車の歩道通行が許される場合
自転車の歩道通行の原則
自転車は、歩道等と車道の区別のある道路においては車道を通行しなければならないとされています。
道路交通法17条1項には「車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない」と定められており、自転車も「車両」にあたるからです(道路交通法2条1項8号、11号)。
車道は自動車が通行する道路、歩道は歩行者と自転車が通行する道路だと誤解している方もいますが、自転車は原則として車道を通行しないといけないのです。
なお、歩行者は道路交通法10条2項により原則として歩道を通行しなければならないとされています。
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自転車の歩道通行の例外
自転車は車道を通行しなければなりませんが、道路交通法63条の4第1項には、普通自転車が歩道を通行できる場合として以下の定めがあります。
①道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができるとされているとき。
②当該普通自転車の運転者が、児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき。
③前2号に掲げるもののほか、車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき。
自転車はこうした場合に歩道を通行できるとされていますが、「警察官等が歩道の安全を確保するため必要があると認めて当該歩道を通行してはならない旨を指示したとき」には通行が認められないとも定められています(道路交通法63条の4第1項柱書)。
それぞれの条件について解説していきます。
①道路標識等により自転車が通行できるとき
普段はあまり意識しない標識かもしれませんが、このような標識があれば自転車も歩道を通行することが認められます。
歩行者と自転車が書かれた標識で、自転車も歩道を通行できることを意味します。
②政令で定める者
道路交通法施行令26条は、②にある「政令で定める者」として、ⅰ児童及び幼児、ⅱ70歳以上の者、ⅲ普通自転車により安全に車道を通行することに支障を生ずる程度の身体の障害として内閣府令で定めるものを有する者と定めています。
児童とは6歳以上13未満の者、幼児とは6歳未満の者をいいます。
自転車通行不可の歩道で自転車同士の事故が発生したときに、一方の当事者については自転車の通行が認められていたとして過失割合に影響を与えることが考えられます。
③歩道通行がやむを得ないと認められるとき
車道の通行が危険な状況で、歩道を通行することをやむを得ないと考えられるときです。
自転車が歩道を通行する方法
自転車の歩道通行が許される場合でも、道路交通法により定められた方法で通行する必要があります。
道路交通法63条の4第2項では以下のとおり定められています。
つまり、自転車は中央から車道寄りの部分(道路標示で普通自転車通行部分の指定があるときは、その指定部分)を徐行しなければならず、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げるときは一時停止しなければならないとされているのです。
徐行とは、道路交通法2条1項20号では「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行すること」と規定されており、自転車については歩行者の歩速が時速4㎞程度であることを踏まえ、時速6~8㎞程度での走行が徐行であると考えられています。
大阪府警察の説明を引用します。
・歩道を通行する場合は、歩道の中央から車道寄りの部分を通行しなければならない。
・歩道を通行する場合、すぐ停止できるような速度で徐行すること。
・歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。
・自転車通行指定部分がある時は、指定部分を通行しなければならない。
自転車事故で歩行者の過失割合が問題にされたときは、そもそも自転車が道路交通法に定められた方法で通行していたかを確認しましょう。
歩道が自転車通行可であるか確認する方法
道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができるとされているときには、自転車は歩道を通行することができます(道路交通法64条の4第1項)。
では、事故現場の歩道が自転車の通行可とされているかについて、どのように確認すればいいのでしょう。
道路標識等による確認
事故現場付近に道路標識等があれば、自転車の通行可とされていることが簡単にわかります。
ただ、道路標識等がみつからないときは、自転車通行不可の歩道なのか、標識等を発見できないだけなのか確証を得ることができません。
警察署に確認する
道路標識等が見当たらず、どうしてもわからないときには、管轄の警察署に確認すれば教えてもらえます。
警察は自転車が道路交通法を守っているか取り締まる立場なので、どの歩道が自転車通行可なのか把握しているのです。
実況見分調書で確認する
事故現場の歩道が自転車通行可ではないことを証明したいときには、刑事記録である実況見分調書を入手することが考えられます。
ただし、実況見分調書には交通規制を記載できる欄がありますが、これが「現場の状況検分書」という簡易な図面だと交通規制を記載できる欄がなく、自転車通行可であるか確認できないことがあります。
弁護士会を通じた照会
実況見分調書に記載がないときは、弁護士会を通じた照会により、事故現場の歩道に自転車通行可の規制があるか確認し、その回答により証明することになります。
歩道は原則として自転車の通行ができないので、「自転車を通行可とする規制があるか」について回答してもらえます。
保険会社との示談交渉や、裁判において、自転車通行可であるか確実に証明する方法として有効なものといえます。
歩道上の歩行者と直進する自転車が衝突した事故の過失割合
自転車と歩行者の事故の過失割合については、別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版」で基本過失割合と修正要素が示されています。
以下では、別冊判例タイムズ38に従って過失割合を解説していきます。
基本過失割合
歩道の歩行者に直進する自転車が衝突した事故では、基本過失割合が自転車100%対歩行者0%とされています。
道路交通法で、歩道では歩行者が優先と定められているため、基本的には歩行者に過失がないとされているのです。
急な飛び出し
歩行者に「急な飛び出し」が認められたときは、歩行者に不利に5%の修正を行うこととされています。
「急な飛び出し」とは、歩行者が大きくふらつくなどして、自転車の前方に急に飛び出してきた場合を想定しています。
ただし、自転車が徐行をし、歩道の中央から車道寄りを走行していることが前提となり、自転車がこうしたルールを守っていないときには「急な飛び出し」による修正は行われません。
歩道上の自転車事故では、自転車が道路交通法で定められた走行方法を守っていないことが多いため、きちんと反論していきましょう。
自転車通行指定部分の通行
歩道に自転車通行指定部分があるときは、自転車は指定された部分を通行しなければなりません(道路交通法63条の4第2項)。
歩行者は、自転車通行指定部分を避けて通行する努力義務があります(道路交通法10条3項)。
歩行者が自転車通行指定部分を通行していたことが過失とされるか問題になりますが、このことだけで過失割合を修正すべきではないと考えられています。
歩行者が歩道に進入した事故の過失割合
基本過失割合
歩行者が歩道に進入し、歩道の自転車と衝突した事故では、基本過失割合は自転車100%対歩行者0%とされています。
歩道は歩行者が優先とされているため、歩行者が歩道に進入した事故でも基本過失割合は100対0とされているのです。
急な飛び出し
歩行者が歩道に進入したときに、自転車の前方に急に飛び出す「急な飛び出し」が認められるときは、歩行者に不利に10%の修正が行われます。
ただし、自転車が歩道を通行するときのルールを守っていることが大前提となり、自転車がルールを守っていないときには「急な飛び出し」による修正は行われません。
保険会社から「急な飛び出し」を主張されたときは、自転車が歩道を通行するときのルールを守っているか確認し、ルールに違反した走行をしていればこれを指摘しましょう。
歩道上の自転車と歩行者の交通事故の裁判例
歩道上の自転車と歩行者の交通事故について裁判例を紹介します。
多くの事件では歩行者の過失を認めない判断をしており、保険会社と交渉するときに参考にしてください。
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①歩行者の過失を認めなかったもの
②歩行者の過失を認めたもの
まとめ
自転車は原則として歩道を通行できませんが、自転車通行可とされている場合等に歩道を通行することができます。
自転車が歩道を通行できる場合も、以下のルールを守る必要があります。
①歩道の中央より車道寄りを通行する
②徐行する
③歩行者の妨げになるときは一時停止する
歩道上の自転車事故で、歩行者にも過失が認められるのは、歩行者が相当に危険な動きをした場合といえます。
自転車事故の損害賠償では過失割合によって賠償金額が大きく変わりますので、自転車通行可の歩道なのか、事故状況はどのようなものなのかなど、一つ一つ確認していくことが重要です。